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小説
3(芋兄弟、R-18)

芋兄弟でグロ注意
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ぽつん、と。
プロイセンは白い天井を仰ぎ見る。かなり天井は高く、手を伸ばして跳んでみるが全く届かない。自分よりやや大きい弟に試してもらおうかと考えたが、届かないだろうことに至って諦める。それに届いたところでどうしようもない。通気口もないこの白い部屋には隙間すらないのだから。

「…ヴェストー」

弟を呼ぶも当の本人は部屋の真ん中に置かれたテーブルの傍に立っている。こちらを振り返る気もないらしい。ずっとペラリ、ペラリと1枚の紙を引っくり返したり文字列を読んだりしている。

『貴方達2人の内、1人の左右どちらかの目をもう1人が抉り取らなければ出られません』

無機質な文字列を読んで最初に出たのはため息だった。寝て起きたら知らない場所、隣にいたのは大切な大切な弟。出られない部屋、紙、テーブル。
他には何もない。
ドイツは酷く動揺して、憤慨して、それから口を利かなくなった。話しかけても無視される。

「…なあ」

ヴェスト。
もう一度呼んで肩を叩く。ちら、と視線だけ寄越して、だんまりだ。
それでもペラリペラリと紙を触るのをやめない。

「…起きてから多分1時間は経ったと思うんだけどよ。もうそろそろ片を付けなきゃいけねーんじゃねーか?」

だんまりはやめろよ。
少し乱暴に肩を揺すって、自分に向かせる。顔は背けられたがとりあえずは言うことを利いたことに満足する。

「ヴェスト、お前がまあ、だんまりになるのはわかる。誰だって相手の目ん玉抉ったり自分のを抉られたりされたくはないもんな。でもなあ、俺達はここから出てやらなきゃならないことがたくさんあるからな。いい加減、諦めねーとな」

幼子に言い聞かせるように肩を撫でながら言う。そうしてようやっと、揺れる青い瞳がプロイセンに向かった。
それをしっかりと受け止める。

「…兄さん」

「やっと喋ってくれるのか。何考えてたかは…まあ、わかってるつもりだけど」

へらっといつものように笑って。

「お前を傷付ける訳にはいかねーな。大事な大事な『ドイツ』だからな、まあ自ずと答えは出る」

「兄さん、俺は」

「ヴェスト、お前が俺の目を抉れ」

実の兄から言われた言葉にドイツは嫌だ、と首を振った。

「兄さん、それはできない」

「なんでだ、別にお前は痛くも痒くもないぞ」

「そうじゃない、そうじゃなくて」

「何度も言わせるなよ、お前は傷付いちゃいけねーんだ。お前は今を、未来を『生きている』。もう死んじまった俺とは違うんだ」

だから。
弟の黒革の手袋を投げ捨てて、まだ若いその手でプロイセンは自分の目を覆わせる。温かいなぁ、呟いた言葉はもちろんドイツにも聞こえていて、何度も首を振った。
彼は嫌だ、やめろと繰り返す。

「俺にはできない」

「できる。俺が保証しよう。お前は俺様の優秀な大切な弟だからな」

「…なんで、俺は貴方と、こんな部屋に」

「もう神様からいい加減にしろって言われてるのかも知れねぇな」

俺ほんとはここにいちゃいけねーし。
プロイセンの言葉はドイツの心に突き刺さる。
国がなくなった化身は消える。本当なら消えるはずの兄がここに、この世界に存在するのはおかしなことなのだ。だからきっとそう遠くない未来、彼は消えてしまうだろうことはわかっている。
でも、そのツケをこんな形で払わさなくてもいいはずだ。ただ消えるだけならいい、でも兄が体を少しずつ削るようになくすのは、とても自分は耐えられない。
しかもその手伝いを自分がするなんて。

「…俺には、できない」

「…いつまでもここにはいられねーぞ。早く腹括れ」

「…なんで、貴方は俺にやらないんだ。貴方なら躊躇なくできるだろう」

「必要ならな。でも今お前を傷付けるのは必要ない。俺がいるからな」

「貴方が代わり、と言うことか」

「代わりのつもりはねーけどな」

へらへら。
笑う兄はじっと自分を見てくる。不思議な色をした兄の瞳。赤と青が交わった不可思議な色。
決して紫にはならない。

「…ほら、早く」

「…でも」

「だー!!!ウジウジすんな、お前が怪我したらイタリアちゃん泣くだろうが!!!日本だってきっとくしゃくしゃに顔を歪めるに決まってんだろ!!!
いーから、早く!!!」

指を目蓋に押し付けられる。薄い目蓋越しにわかる眼球の動き。僅かに痙攣しているのがわかる。
…恐怖、か?

「…貴方も、怖い、のか?」

「…怖いに決まってんだろ。だから早くしろって言ってんだよ」

小さく囁くように紡がれた言葉。その声が震えていることに気付く。

「…後悔は」

「しねぇ。
しねぇからヴェスト、一思いに」

ぱっちりと開かれた左目、多分浮かんでいるのは懇願。

「…」

息を止めてゆっくりと、指を沈めて。柔らかな球体に指先が触れる。人差し指、中指、目蓋の裏に差し込んで。
一思いに。




ころりと指から転がったのは赤く染まった球体。ボタボタと、指先から滴るは兄のもの。その兄も顔半分を真っ赤に染めて、それでも笑っている。
少しダルそうに、緩慢に手を伸ばしてドイツの頭を撫でた。

「…よくできました」

弱々しい声。
激痛も、怨みも、なかったかのようにただ笑って手を動かす兄に声も出せなかった。

「見ろヴェスト、壁が開いた」

プロイセンの指差す方向にはぽっかりと空いた四角い穴。外は明るいらしい。光が中まで射し込んでいる。

「ほら、帰るぞ」

服の裾を引く真っ赤な彼は、にこりと笑う。返事も返せずに立ち尽くすドイツに、馴染んだ声が聞こえた。




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