小説
天使と悪魔 天使組がかわいい
「ギル、これで全員?」
「だな。オレ様達の仕事は終了っと」
かつんっ、と剣を氷にぶつけ、ギルベルトは"氷漬け"になっている相手を見遣る。
「まだ若ぇのになぁ…」
「奴等に殺られた、私達の仲間もね」
「…そんなカリカリすんなよ、元はオレ達の仲間だぜ?」
ギルベルトの"仲間"と言う言葉にエリザベータは苦い顔をする。その反応にケセセとギルベルトは笑った。
「ローデリヒに片想い、フェリシアーノちゃんはかわいい弟分でフェリクスは大切な友達。
お前は大変だぁな、エリザ」
「…それ以上言ったら例えあんたでも斬るわよ」
ケセケセ笑うギルベルトを不穏な表情で睨むエリザベータに、降参の意を込めてギルベルトは両手を上げる。
すぐにでも剣を抜きそうな彼女にギルベルトは表情を引き締めた。
「…ヴェストだってあっちにいるしな」
「…トーリスくんだって、フーちゃんといたいはずなのに…」
「だがあいつが最初に斬りかかった。ようはそう言うことだ」
ギルベルトの言葉に渋い顔でエリザベータは頷く。
ふと、"氷漬け"の青年を見た。
「…ねぇ、この子達をあっちに届けてあげない?」
「あ?…ああ、そうだな…」
エリザベータの視線を追い、ギルベルトは頷く。そのまま視線を肩へと移し、ちょいちょいと指先で肩に乗る小鳥を撫でた。
「ケセセ、アーサーのバカに伝えてくれ。こいつ等送り返してやりたい」
ぴよっ
小鳥はギルベルトの指先をくちばしでつつくと、パタパタと飛んでいった。
エリザベータは飛んでいく小鳥を目で追い、はぁっ、とため息を吐き出す。
「あんた、あんだけかわいい子を喚べるなら全部可愛くすれば?」
「オレ様、アーサーみたく頭ん中お花畑じゃねーからな」
「アーサー…ね」
トーリス達を止めていたアーサーを思い出してエリザベータはなんとも言えない顔をする。
「彼…弟思いなのよ。私ね、ちゃんと分かってるのよ?でもなんか…気持ち悪い」
「あいつぁイカれてるからな。フランの奴にもう一人の弟盗られてるから、しょうがないっちゃしょうがないんだけど」
"でもなぁ…"とギルベルトは唸る。
話題となっているアーサーは恐らく弟と思われるマシュー、そしてアルフレッドを溺愛していた。しかし、天使として生まれたアルフレッド、悪魔として生まれたマシューは大人達の都合で別れて暮らさなければならなくなった。
そこへフランシスがアルフレッドを引き取ると宣言。本来仲の良くなかったアーサーとフランシスはけんかをし、そのままこの戦争で別れたのだった。
それ以来残ったマシューに依存し、彼に何かあれば仲間だろうが許しはしなかった。
「…前からオレ達はぎすぎすしてたんだ、トーリスが口火を切らなくてもいつかは爆発してた。だったらいっそのこと、オレ達の神に全てを決めてもらえばよかったな」
「…神なんているの?」
「少なくともフェリシアーノちゃんとお兄様は会ったらしいぜ。それと、天使達の司祭が毎日声を聞くんだと」
「…そう、天使と悪魔の長が見たのは何かの嫌がらせかしら。たぶん二人とも苦しんでるのに」
嫌な世の中。
エリザベータはそう言って口をつぐんだ。ギルベルトはエリザベータを見遣り、空を見る。
「エリザ、アーサーからの返事がきたぜ、ケセ」
「ノア、倒れたって聞いたけど大丈夫かい!?」
バタバタっと元気な足音と共にアルフレッドは部屋に入ってそう言った。が、入ってみると意外と元気そうなノアの姿に首を傾げる。
「hun?なんだ、元気じゃないか」
「実はそうでもねぇべな」
ノアが肩を竦めると隣に座る青年はお菓子をつまみながらあのなー、とノアを指差す。
「こいつ、魔力スッカラカンで運ばれてきたんよー」
「そうなのかい!?」
「そ、だからフランシスとリリアに外出禁止令出されとるし」
「まだすこぉしだるいけんども、もう大丈夫だって言ってるのに…」
ノアは少し膨れたようにベッドに転がる。アルフレッドはそれでも元気そうなノアに安心したように笑った。
「大事にならなくて良かったんだぞ」
「むしろこいつの方が重症…」
「オレはどうってことないしー。あとはフランシスの許可が下りれば」
「まだしばらくは出さないけどね」
「フランシス!」
小さなケーキがたくさん乗った大皿を持ってフランシスが入って来ると、歓声を上げて青年は手を叩く。
「美味しそうやし!」
「美味しそう、じゃなくておいしいんだぞ!」
「はいはい、けんかしないの。アルも食べていいよ」
ことん、と病人用の簡易机に皿を置くと、すかさず三人分の手が伸びてくる。あむっと最初に口に入れたのはアルフレッドで、幸せそうに食べていた。
「おーいしーんだぞー」
「…うめぇ」
「マジケーキかわいいんだけどー、フラン分かってんじゃん、大好き!」
三者三様の誉め言葉にフランシスは優雅に頭を下げる。
「喜んで頂けて何より」
「アルフレッド毎日こんなうまいもん食べてんの?マジ羨ましいし」
「最近はアントーニョの家でも食べてるんだぞ」
「オレの都合でね…今日はオレがちゃんと作るから」
「羨ましいべ、最近は忙しさにかまけてアイスと飯食ってねぇべ…」
「オレなんか病院食だし!」
ニコニコと笑うアルフレッドと対称的に肩を落とす病人二人。ふふふとフランシスは笑い、チラッとアルフレッドを見る。
「アル、今日は二人も招待しようか?」
「「え」」
「そうだぞ、みんなでご飯食べたらきっと楽しいんだぞ!」
「…ね?兄弟や友達連れてきて良いから」
あれが食べたいこれが食べたいと楽しそうに並べるアルフレッドを尻目に、ノアと青年は顔を見合わせる。それから二人で困ったように笑った。
「あんこやアイスに知らせるべ」
「エドとイヴァンも呼ぶし!」
「トーニョも呼ぼうかな」
「ならアダムとエマも呼ばないと!」
「いっそのこと、全員呼べばいいんじゃね?」
「やだお兄さん大変なんだけどー!」
青年の提案にフランシスが文句を言う隣で、アルフレッドは扉を開ける。
「知らせてくるよ!」
「あっ、まっ…もういない!」
フランシスが振り返って止める間もなくアルフレッドは廊下を駆けていく。"イヤッフーッ!!!"と奇声を上げて走り去っていった。
「ああっもうっ!!」
フランシスが追おうかどうしようかアルフレッドへの文句を呟きながら右往左往している横でノアがぼそりと言った。
「…弟は何考えてるか分からんべ」
「あーっどうしよう!?献立考えてないよ!!」
フランシスの叫びが病室に響いた。
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