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小説
寒い日には温もりを共有して(英セー)

ふわり、ふわり。
外で舞う街路樹の葉を、セーシェルは見ていた。自分の暮らす常夏の国とは違い、肌を裂くような寒さに包まれたこの霧の国は、暖かな格好をしなければ凍えて死んでしまう。
彼女の服装は、小麦色の肌を晒す海色のワンピース。それに目を止めて、イギリスは部屋からいなくなってしまった。
かれこれもう1時間経つか。
まだ彼は帰ってこない。

「もう、イギリスさんたらどこ行っちゃったんでしょう?」

一度探しに行こうかと思ったが、外交上の問題で自由にイギリスの家の中を歩き回ることはできない。万が一、重要な資料のある部屋に踏み込みでもしたら、ごめんなさいでは済まない。
フランスのような、よく出入りをする慣れた国なら良いのだろうが、自分は全くこの家のことはわからない。以前出入りしたが、あの頃からよくわからなかった。
仕方なく、部屋に置かれた本を読んで暇を潰していたが、もうそれも読み終えた。子供が読みそうな、簡単でわかりやすい本ばかりが部屋に並んでいた。

「シーランドくん用ですかね?」

そもそも、この部屋はどう見ても応接室ではない。最初は彼の私室の1つなのだろう、と思っていたが、本当はシーランドの部屋かも知れないことが今発覚した。
もし小さな彼が何も知らずに部屋に帰ってきて、自分の部屋の中に知らない女がいたとして、それに驚いただけで済むとは到底思えない。泣き喚き、この部屋は地獄絵図になってしまう。

「…どうしましょう」

小さく溜め息を吐き出したその時、部屋の扉が開く。まさか、と身を竦めて見やれば、そこには箱を抱えたイギリスの姿があった。
ほっ、セーシェルは胸を撫で下ろして、それから目を吊り上げる。

「イギリスさん!私1人で部屋に放って置かれて寂しかったです!」

「わ、悪いな。その、これを探してて…」

これ、とイギリスが示したのは一抱えもある木の箱。艶やかな光沢を放つそれは、とても美しい。ほえー、セーシェルが表面を撫でれば、指先に埃が付いた。かなり前から開けられていない箱らしい。

「この箱は日本からもらったんだ。キリと言う木でできている、とても高い箱らしい」

「そうなんですか、いいなぁ」

羨ましげに見つめるセーシェルにイギリスは咳払いをする。不思議そうにイギリスに目を向けたセーシェルを前に、箱を開けた。

「…これを、お前に」

中から現れたのは、暖かそうな白いセーター。その下にはこれまた暖かそうなロングスカート。
わあ、セーシェルが感嘆の声を上げれば、コホン、再びイギリスが咳払いをした。

「…お前にいつか渡そうと思って」

「イギリスさん、わざわざ私のために!」

「その、作って」

「手作りなんですね!イギリスさん相変わらずすごいです!」

「…そ、その、渡す決心が付かなくてそのままこの箱の中に…」

「最後ダメじゃないですか!私、今すごく感動したのに!」

なんだよう、口を尖らしてイギリスは上目遣いにセーシェルを見る。もう、掴んだセーターはふわふわで、一目で手作りだとわかる。イギリスが丹精込めて作っているのが目に浮かぶ。
はあ。溜め息に過敏に反応したイギリスが眉を潜めるのを確認して、ぎゅ、セーターを抱き締めたセーシェルは頭を下げた。

「ありがとうございます!…これ、どうして今?」

「…お前、コートの下がそれってどうなんだ?」

それ、示されたのは膝丈のワンピース。着ていたコートは厚手で暖かな物だったが、その下はいつもの格好である。
ああ、セーシェルは頷く。

「自分の家が暖かいので、いつもの調子で来ちゃいました」

「それもどうなんだ。…まあでも、これなら寒くないだろ?」

ほら、スカートも渡してイギリスはそっぽを向く。一瞬理解できずに首を傾げたが、自分の服と見比べて、ようやく理解した。

「…イギリスさん、私が風邪を引かないように…?」

「渡すのに良い機会だし、それとりあえず着ろよ。それから外に出て、他の服を買おう」

「わ、私そんなにお金を持ってきてなくてですね!」

「ばか。女に金払わすかよ。買ってやるから」

「えっ、でも」

「いいから。部屋の外で待ってるから、着替えたら教えろ」

「は、はい」

戸惑うセーシェルに背を向けて、イギリスは部屋を出ていく。パタン、扉が閉まったのを確認して、首の後ろで結んだリボンを解く。

「…イギリスさん、着替えました」

「おう」

数秒待って、イギリスは扉を開ける。
くるん、振り返ったセーシェルはにこりと笑った。

「…えへへ、どうでしょう?」

「似合うぞ。…とても」

振り返ったセーシェルの足元、スカートの裾は飾りが付いており、それが揺れて可愛らしい。下で2つに括った黒髪がふわりと揺れて、とても。

「…か、可愛い、ぞ」

「…えへへ。ありがとうございます」

はにかむ少女にイギリスは緊張しながらも優雅に手を差し出す。セーシェルは瞬いて、はい、その手を掴んだ。
小さなその手をゆっくりと引く。

「…あの、イギリスさん」

「なんだ?」

「雪は降りますか?」

わくわく、キラキラとした瞳で自分を見上げるセーシェルに、イギリスは眉を下げた。

「今夜降る予定ではあるが、今日思ったより暖かいからな。どうだろう」

「これで暖かいんですか。私、多分あの格好で外に出たら死んじゃいますよ」

「外交問題に発展するからやめてくれ」

コートを来て、イギリスは首元までボタンを締めるセーシェルに自分のマフラーを巻く。ふは、あったかい、と呟くセーシェルに微笑んだ。

「まずは食事だ。待たした分、旨い店に連れてってやる」

「やったぁ!」

セーシェルの全身をチェックしてイギリスは頷く。最後に、再びその小麦の手を取った。

「よし、出かけるぞ。覚悟決めろ」

「大丈夫ですっ。寒くても、イギリスさんの手があったかいので我慢できますっ」

「ようし、行くぞ」

優しく腕を引いて、イギリスは部屋を出る。セーシェルはふふふ、笑って彼に寄り添った。



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あきゅろす。
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