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小説
天使と悪魔 ドタバタ

「ところでアルフレッドくん」

「なんだいイヴァン」

人通りも疎らな医療塔の廊下を、相手と指を絡めながら歩くアルフレッドは、隣のイヴァンを振り返る。

「お腹すいたのかい?」

「年中お腹がすいてるのはきみくらいでしょ。そうじゃなくてさ」

イヴァンは少しばかり呆れを込めた視線をアルフレッドにやり、ため息と共に言葉を紡ぐ。

「アルフレッドくんは、フランシスくんのこと、好きなの?」

「うん?好きだよ」

「…それは」

イヴァンはほんの少し絡める指に力を込めてアルフレッドを見る。

「例えばぎゅって抱き締めたいとか」

「うん、ギューッてしたいよ」

「一緒にいたい、とか」

「いつも一緒にいたいな」

「…キスしたい、とか、そう言うのは?」

「…きっ、キスはっ」

イヴァンの問いにアルフレッドは頬を赤く染めながらアワアワと挙動不審に動く。
その態度にイヴァンはさらに追い打ちをかける。

「したことないの?」

「ふっ、フランシスはえっちだから、オレのほっぺにしたことならあるけど、その、あの、それ以上はまだ」

「まだ?」

「違っ、し、してないっ」

してないんだぞーっ!
わーっとアルフレッドの頭から大量の湯気が立ち上る。完全沸騰した赤い顔を見て、イヴァンは笑った。

「アルフレッドくんはウブだなぁ」

「い、イヴァンはないのかい!?」

「ボク?」

「そう!オレのこと笑うけど、きみはいないのかい、すっ、好きな人!」

「ボクはー…」

イヴァンは少し考えて、それからまた笑った。

「アルフレッドくん♪」

「はぇっ!?」

「じょーだん♪」

「い、イヴァン!」

「ふふ、教えてあーげない♪秘密なんだ」

「ひっ、酷いんだぞ!オレだけ言わされるなんて!」

恥ずかしさから怒りへ変わった赤い顔を見て、イヴァンは笑う。

「きみがあっさり言うからでしょ。自分から」

「で、でも、イヴァンはずるい!ずるいんだぞー!」

「…なぁにがずるいの?」

「!!」

突然の後ろからの声かけに、アルフレッドはビクリと肩を震わせて後ろを振り返る。
後ろには話題に登っていたフランシスがきょとんとしていた。
彼は驚くアルフレッドと笑うイヴァンを交互に見比べ、首を傾げた。

「…どしたの」

「え、あ、いや、その、なっ、なんでもないんだぞ!」

「…ホントに?」

「ほ、ホントに!」

アルフレッドの必死の肯定に不審そうにしながらも、フランシスはふぅん、と頷いてイヴァンへ顔を向けた。

「イヴァンは嬉しそうだね」

「ふふふ、ボクアルフレッドくんとデート中だから」

「あらぁ…いいなぁ、お兄さんも交ぜてよ」

「だーめ、あとでアルフレッドくんにお願いしてみれば?」

イヴァンは楽しそうに笑いながらアルフレッドの手を引く。そのまま駆け出した。

「またねー」

「アルー、今日のご飯はトーニョんちだからねー」

「オッケイなんだぞー!
わわっ、イヴァン待って、速いんだぞ!?」

きゃあきゃあと楽しそうな笑い声と共に二人は駆けていく。その後ろ姿が見えなくなるまでフランシスは見ていた。


「ねぇナターリアちゃん」

暗い部屋の中、乳白色のランプの光を頼りに、トーリスは部屋の奥に声をかける。一度目は無視され、二度目になってようやく彼女はこちらを向いた。
やや不機嫌そうな鋭い目付きにトーリスは柔らかく笑いかけた。

「珍しいね、お姉さんのところには行かないの?」

「…姉さんは仕事だ。私もいつも一緒にはいれない」

「むしろ一人の方が危なくない?」

「…お前は姉さんをバカにしているのか?」

トーリスの言葉に眉間にしわを寄せ、ナターリアはドスドスと足音を立てて暗がりから出てくる。
灰銀の長い髪を揺らし、露出の高いフリルのタンクトップに下は下着のままと言う格好にトーリスは首を傾げる。

「服着ないの」

「私は寝る。寝るのになぜわざわざ着る?」

「いや…構わないけど、ここオレの部屋なんだけど」

「別に女を連れ込むわけじゃないだろう、なら私が寝ていても構わないはずだ」

「…ま、いいけど」

さっさと布団に潜り込み始めたナターリアにトーリスは肩をすくめ、こちらに背を向けるナターリアの乗るベッドの縁に座った。そのまま彼女の髪を優しく梳いた。

「…なんでオレの部屋で寝るの」

「うるさい。お前に教える必要はない」

「じゃあ…オレのこと、好き?」

「…あのな」

ナターリアは面倒臭そうに寝返りを打ち、自分を見降ろすトーリスを睨み付ける。

「私をあいつの身代わりにしようとするな。私はドジな姉で手一杯だ、お前まで面倒は見られない。と言うか見たくない」

「…」

「そもそもこの状況はお前が招いたものだろう。自分のやったことも片付けられない奴は、私は好かん」

「…あは」

いつもながら手厳しいね。
トーリスは眉を八の字して笑う。その顔が勘に障ったのか、ナターリアの口元が微かに震えた。さらに強く言葉を投げる。

「だからっ…私はその顔が嫌だと言っているんだ!いつもへらへらへらへら、顔では笑っておきながら腹の中ではどうせまた違うことを考えているんだろう?腹が立つ!」

「ナターリアちゃんはなんでオレの考えてること、分かるのかな」

「お前の"恋人"よりは長くお互いを知っているからだろう!でなければ私はあの時お前を止めなかった!」

「それは」

「お前は早くフェリクスを殺せばいいだろう!?そして早く死ね!いつまでもウジウジと…っ私はお前の保護者ではない!!」

ナターリアはトーリスへ叫び、シーツを被って背を向ける。その背中に何か言おうとしたが、トーリスは諦めて立ち上がった。
掛けてあった上着を取り、頑なに背を向けるナターリアに声をかける。

「ちょっと出かけてくるね」

ナターリアからの返事はない。それに肩を竦めるとトーリスは行ってくるねと一言残し、外へと出ていった。


「ようよう変態アーサー、ちょいと話を聞いてくれ」

「…うるさい、何時だと思っているんだ」

薄明かりの中、アーサーは本を読んでいる。時折パチパチと暗闇の中で何かが弾ける音がした。
その穏やかな空間へ突然現れたギルベルトにアーサーは眉間に皺を寄せる。そんなアーサーの様子に気づいているのかいないのか、ギルベルトはケセセと楽しそうに笑っていた。頭の上の小鳥がギルベルトが笑う度に揺れている。
僅かな睡眠の、その前のティータイム。アーサーにとって大切な時間だが、帰る気のない様子にため息を吐きながら椅子を勧めた。
ギルベルトは待ってましたとばかりにどかりと座る。

「…なんか飲むか」

「そうだな、美味い紅茶」

「…分かった、すぐ淹れるから…用件を話せ」

本を置いたアーサーは席を立ち、水を火にかける。その後ろ姿へギルベルトは話始めた。

「アーサー、そろそろあっちに仕掛けてもいいと思わねーか?」

「仕掛ける、とは?」

「自分達が尊い存在だと思い込んでる天使共を八つ裂きにしに行くことだ。なあ、しばらく若ぇ奴等ばっか戦場に出してたろ、そろそろ俺様にも暴れさせろよ」

「…」

アーサーは無言で火を消す。カップとポットに湯を入れ、茶葉を投入。ぽんと蓋をして、ギルベルトを振り返った。

「八つ裂き、か」

「ああ。何ならお前の弟、さらってくるぜ?」

「…」

「ヴェストにフェリシアーノちゃんに、お坊ちゃんに…。オレはさらわなくちゃならねぇ奴はたくさんいるが…お前が望むならお前の弟をさらってやってもいい」

「…アルは、オレが直接連れ戻す。だから手を出すな」

「手を出す?あっちがオレに何もしなきゃな」

ギルベルトが口の端を持ち上げれば、ブワリとアーサーから黒いもやが立ち上る。グリーンスフェーンの瞳がキラキラと光り、いつの間にか手にはステッキを持っていた。
その先はギルベルトに向けてはいないものの、明らかにギルベルトに対して使うために召喚したものだと分かる。
ケセセとギルベルトは笑う。

「そんな殺気立つなよ。どうせフランシスのことだ、大して戦う術なんて教えてねぇだろうな。いつまでもかわいいままの"弟"にしておきたいだろうからな」

「あいつはオレの弟だ」

「お前はそう言うが、あいつはお前に返すつもりなんてないだろうよ。じゃなきゃ自分好みに育てないだろうしな」

「黙れ。お前の弟に手を出すな。これさえ守ればあっちに送ってやらないこともない」

「!」

アーサーの言葉にギルベルトはにやりと笑う。

「早く言えよ」

「…いいか、絶対だぞ。傷1つでも付けてみろ、お前を殺す」

「やれるんならな。ったく、年寄りは頭が固くてしゃあねぇ」

「お前もそう変わらないだろ。…ほらよ、これ飲んでさっさと帰れ」

アーサーがギルベルトの前にカップを置くと、ギルベルトは嬉しそうに口を付ける。

「お前紅茶だけは旨いからな。飯はまずい」

「うるせぇ!!さっさと帰りやがれ!」

ギルベルトの頭をひっぱたき、アーサーは本を持って部屋の奥へと引っ込む。ケセセセとギルベルトはバカにしたように笑い、頭の上の小鳥に視線をやった。
小鳥は首を傾げながらもパタパタと飛び立ち、スイーッと闇の中に消えていった。ギルベルトは部屋の奥へと大声を出す。

「アーサーよろしく頼むぜ!お兄様の説得は頼んだ!」

「いいから帰れバカァ!」

部屋の奥から怒鳴り声が聞こえ、また静かになる。ニヤニヤ笑うギルベルトは小鳥の消えた方向へと消えていった。



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あきゅろす。
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