[携帯モード] [URL送信]

◆デコ&ボコ(連載中)
春嵐
◇◆◇


うっそうと生い茂る低木を掻き分け……更に掻き分け、ひたすら掻き分け、手や腕が擦り傷だらけになろうとも、顔に蜘蛛の巣が、直撃しようとも、周囲に血走る目を光らせ、あるモノを探しださなければならない。

そんな探索中である俺は、春だというのに一人だけ真夏にいるかのように汗だくになりながら、公園の中を彷徨っていた。
もう、かれこれ二時間はこうやって、探索をしているが、目当てのモノは未だ見つからない。
目当てのモノというのは、ミケランジェロと呼ばれる黒いウサギ。
昨日、この公園で、スガとツカサが探していた、ミケランジェロはウサギの事だったのだ。
因みに、あの長ったらしい名前のサウザンドなんとかは、自力で飼い主の下へ戻っていったらしい。
真上探偵事務所にバイトとして雇われた俺は、ミケランジェロを探す……つまりはペット捜索の仕事中という訳だ。

「おい、斉藤。なにサボってやがる。さっさと探せ」

長く伸びた木々の枝の屋根付きベンチに腰掛け、嫌みったらしく眼鏡のブリッジを中指で押し上げるスガは、詐欺師なのではないかと思う。
昨日、感じたスガの優しさだとか、爽やかな微笑みは、遠い蜃気楼だったようで……今のスガは、鬼か悪魔のようだ。
スガも俺と同様、仕事中なのは変わりない筈なのに、ベンチに座るスガの膝には、豊満な胸を強調するかのような大胆に胸元を開けた服に今にもパンツが見えそうなスカートを穿いた女性が座っている。
そして女性の手には、手作り弁当。
ピンク色の箸で、卵焼きを突き刺すと、それをスガの口元へと運ぶ。

「はい、ヤスクン、あーん」

甘ったるい猫撫で声で、むやみにクネクネしながら嬉しそうにスガを見上げる彼女は、どうやらスガの恋人らしい。
汗水垂らして働いている俺をよそに、スガは仕事もせず恋人と楽しく歓談中。
俺には「サボるな、働け」と、命令してくるクセに本人は全く仕事をしていないし、彼女いない歴と年齢がイコールの俺の目の前で、これ見よがしに、恋人とイチャイチャしているし――やっぱりスガは嫌な奴決定だ。
疲労度四割、嫉み度六割の眼差しを仲睦まじい二人に向け、弁当なんか腐ってしまえ!!と、念じる。

「ね、美味しい?」

「ハルカが作った物なら、なんでも美味いよ」

「本当!? 嬉しいー! ヤスクン大好きー!!」

「俺もハルカが大好きだよ」

どうしよう、この二人の会話を聞いていると、なんだか体の奥底からむず痒くなってくる気がする。
呪いをかける筈が、逆に呪われた気分だ。

「……ねぇ、ヤスクン。ハルカね、今度は、ヤスクンのお家で、ご飯作ってあげたいな」

モジモジと、しながらも、潤んだ目でスガを見上げた彼女の表情が、一瞬にして凍りついた。
彼女を見るスガの目が、優しい目から何の感情も見えない冷たい目へと変わったからだ。
スガが、ベンチから突然立ち上がったので、彼女は勿論、可愛く盛り付けてある弁当も地面に転がる。
から揚げや卵焼きが、土や砂のトッピング付きになってしまったので、もう食べられないだろう。

「悪いが、お前とはこれまでだ」

スガは、呆けたように地面に座り込む彼女に低い声でそう告げた。

「な、なに? 突然、どうしたの?」

混乱している様子の彼女にスガは、ワザとらしく溜息を一つつく。

「お前とは別れると言っているんだ」

キッパリと言い切るスガに彼女は目を見開き、身体を小刻みに震えさした。

「ちょ、ちょっと待ってよ、どうして? そんな急に……」

本当にちょっと待ってだ。
この二人、先程まで、周りなんて一切気にしないバカップルのように仲良くしていたのに……スガのこの急激な心の変化っぷりは、一体どうしたというのだろうか。


◆◆


[次へ]

1/13ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!