◆雑多集
未来を視る者5
―公園―
さわさわと、木々の葉ずれの音が鳴り響く中、学校帰りの小学生達や、幼児を連れた母親達などが思い思いに時間を過している。
俺は、そんな光景を眺めながら、のんびりと歩いていた。
「真君!!」
突然、自分を呼ぶ声が耳に入ってきた。
振り返ると、美穂は、こちらに手をふりながら小走りで近付いてくる。
「こんにちは!」
美穂は軽く息を乱しながらも、笑顔で話しかけてきた。
「真君の家に行こうかとも思ったんだけど、直接行くと迷惑かなぁーと思って、此処で待ってたんだ」
――俺を待っていた?
解らない。
彼女は何を思って、俺なんかを待っていたんだ?
親しい人を見殺しにした奴なんか、普通会いたくないだろう。
「あ、やっぱり会いに来たの……迷惑だった?」
俺が黙り込んでいたので、美穂は罰の悪そうな表情をしている。
「いえ、そんな事は……会いたくないのは貴女の方じゃないのですか?」
「アナタじゃなくて、美穂よ」
美穂はそう言うと、柔らかく微笑み、ゆっくりと歩を進めだした。
「此間は、ごめんなさい。気を悪くしたでしょ」
俺は、小さく首を横に振る。
「……ありがとう」
俺は、美穂を追いかけるように、足を踏み出した。
「真君のその能力って、いつからあったの?」
「……たぶん、物心付いた頃には、既にあったと思います」
母親が、俺を人混みなんかに連れて行くと、突然火がついたかのように泣き出す事があったと聞いた事がある。
恐らく、そういう時は、誰かの死を見てしまった時だったのかもしれない。
「そっか……大変……だったんだろうね」
美穂がポツリと呟く。
「え?」
「人の死なんて正直、見たいものなんかじゃ、ないでしょ?……でも、真君は、嫌でも見てしまうのよね……それも、色んな人の死を」
美穂は俯き、足を止めた。
「私の死も見えたりするのかな?」
質問の意図が解らない。が……
「今のところ、貴女、――美穂さんの映像は見えませんよ」
「そう。……ね、その映像って、どのぐらい先のものまで見えるものなの?」
「経験上、三日……ですね」
「そっか」
美穂はまたゆっくり歩きだす。
「その映像って、何回も見れたりする?」
「えっ?」
「ほら、何回か見たら、新しい発見とか、手がかりが判ったりするかもしれないじゃない?」
――あぁ、岩崎さんをひき殺した犯人の手がかりが見つかるかもしれない……と、美穂は言いたいんだろう。
まぁ、何度か見れば判る事もあるかもしれないが……
「恐らく、映像を見れるのは、一度だけだと思いますが……」
と、言えど映像を見た後、その人に会いに行ったりした事がない。
いや、会いたいとも……思わなかった。
「見たいと思っても……見られない?って、見たいなんて思わないよね」
美穂は苦笑いを浮かべ「ごめん」と、小さな声で謝る。
それから、俺達は、お互い無言のまま、公園を抜け、俺が住んでいるマンションの下までやってきた。
時間にして、十分弱の沈黙を破る。
「……美穂さんは、俺の能力の話……信じているんですか?」
美穂は少し驚いたような表情を浮かべ、軽く俯く。
「正直、信じられない。……だけど、あの時、真君が岩崎君に忠告した時、私、傍にいたから……」
信じられないけど、信じるしかない。
美穂の姿が、母親の姿と重なって見える……。
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