◆雑多集 未来を視る者3 やはり現場は、あの時俺が見た場所だった。 目撃者の情報提供を呼びかける立て看板から少し離れた場所に、花束や線香等が置かれている。 俺も、花か何か持ってこれば良かったかな…… そんな事を考えながら俺は、岩崎さんが事切れた場所に立ち、しゃがみこんだ。 「……ハンカチ……ありがとうな」 相手にはもう聞こえるはずもないが、それでもなんとなく礼を述べたい気分だった。 「――それから、ごめん……」 そして謝罪。 俺は、時折、岩崎さんの様に人の死に様を“見て”しまう事がある。 それは、いつも少し前の未来だ。 何度か“死”を食い止められないかと行動した事もあったが、“死”は運命という鎖に縛られているのだろう。 ……止められた事は一度もない。 岩崎さんの事故も、俺が駆けずり回った所で防ぐことは出来なかっただろう。 ……だが、可能性はゼロではなかったんじゃないか?と疑念する自分が居るのもまた事実。 ――それでも俺は動かなかった。 動けば、壊れていくものがあるのを知っているから。 「……貴方」 背後からの声に、思考を中断させられた。 振り返ると、赤い傘を差した女性が目を大きく見開きこちら見ていた。 ―――見覚えがある。 岩崎さんと出会った時に隣に居た女性だ。 「……何故、貴方がここにいるの?」 女性は振るえを含んだ声で口を開く。 「ねえ、貴方、何か知っているんじゃないの?岩崎君が殺されるって事知っていたのでしょう?」 女性は今にも泣きそうな表情で、俺の腕を痛い程掴んできた。 「……俺は、何も知らない」 「嘘よ!!貴方、あの時岩崎君に言ったじゃない!「車に気をつけろ」って!……何か、何か知っているんでしょ!?」 俺は、人の死に様を‘見る’事ができるのです。 ――そういって、誰が信じてくれる? 俺は、未だ強い力で掴んでいる女性の腕を振り払おうと、身体を捩った。 だが、女性は逃がすまいと傘を放り投げ、両腕で更に力を込めながら掴みかかってくる。 「逃がさない!貴方がきちんと話すまで逃がしたりはしない!!」 そう叫ぶように言い放った女性の顔に、身体に冷たい雨が容赦なく降り注いだ。 ※ [前へ][次へ] [戻る] |