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◆雑多集
未来を視る者7

大きな家が立ち並ぶ、閑静な住宅地の一角に岩崎の自宅があった。
造りは純和風で、周りのどの家よりも大きく、また敷地も広い。

その家の門の前を、喪服を着た大勢の人達が、列を作って並んでいた。

俺は、その光景を少し離れた所から見る。

やたらと年配の人が多く、高校生の俺は、とても浮いて見えるだろう。

そんな中、弔問を済ませた年配の女性達が、俺の近くでボソボソと話しを始めた。

「亡くなった息子さん、大学生だったかしら、若いのにねえ」

「何でも、交通事故みたいよ。ひき逃げですって」

「あら、恐い。犯人は見つかったの?」

「それが、まだみたいよ。深夜だったし、目撃者もいなかったみたいで、警察も苦労しているみたい」

「そう、早く犯人捕まえて欲しいわねえ。近くに犯人が居ると思ったら、気味が悪いわ」


……交通事故?

殺人事件じゃなくて?

警察は、まだ、事件だとは思っていないのだろうか……


考え込む俺の視界に美穂の姿が見えた。

黒いワンピースを纏い、ハンカチで何度も何度も目元を拭っている。

「……美穂さん」

俺の小さな呟きが聞こえたのか、美穂がこちらを向いた。

その目は、赤く充血している。

「真君、……来たんだね」

美穂が、微かに笑った。




「あら、美穂ちゃん、大丈夫なの?」

品の良さそうな年配の女性が声を掛けてきた。

「大丈夫ですよ。それより、彼を岩崎君に合わせてあげたいんですけど……」

美穂がチラリと俺に視線を向け、年配の女性に視線を戻す。
年配の女性は、意外だと言うような表情で、俺を見上げた。

「あら、昇さんの……お友達?」

「……岩崎さんには、とても良く……してもらいました」

嘘は言っていない。
たった一度しか会わなかったけれど、具合の悪くなった俺に、声を掛けてくれた。
見知らぬ俺を、気遣ってくれた……

「そう、昇さんは本当に優しい子だったから……どうぞ、顔を見ていってあげて」

年配の女性に促されるまま、長い廊下を歩いた。
歩く度にキシキシと鳴る廊下を抜け、女性が障子戸を開ける。
中には、二人の年配の男性が、敷かれている布団を前に座っていた。

「昇さんと、お別れがしたいそうなの、少しの間、席を外しててもらえるかしら?」

「……そうか、判った。わし等は隣におるけ、終わったら声掛けてくれや」

一人の男性がそう言い、二人の男性は隣の部屋へと移動して行った。

「それじゃ、私も隣に居てますから……」

年配の女性は、軽く微笑むと、二人の男性が入っていった部屋へと消えていった。
その背後を見送ると、美穂と共に岩崎さんが眠る部屋へと入る。
畳の香りと、線香の匂いがした。





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