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◆雑多集
未来を視る者6



『近寄らないで!!』

そう、怒鳴るような大声で母親に言われたのは、俺が小学五年生の時だ。

その日、母親の弟、俺の叔父が事故で亡くなった。
叔父が亡くなったという知らせを聞いた母親が、俺に発した言葉だ。


事故の前日、叔父が家に遊びに訪れた時、酷い頭痛に見舞われた。

そう、俺は見てしまったんだ。
叔父が、列車事故に巻き込まれ、死亡する映像を。

この手の話を母親が嫌うのを解っていた。
なぜなら、幼い頃から、母親にこの手の話をする度に、きつく叱られていたからだ。
子供が、知らない人が‘死ぬ’などと口にすること事態、褒められた事ではないのは確かだ。

だが、俺は、叔父が好きだった。

明るく、朗らかに笑い、俺を可愛がってくれた叔父を。
‘叔父に死んで欲しくない、母さんに話をしたら、助かるかも知れない’その一心で母親に告げた。

だが、母親は案の定、烈火の如く俺を叱りつけ、初めて頬を叩かれた。
身内が‘死ぬ’などと不吉な事を言われたら誰だって怒るだろう。
母親とはいえ、一人の人間だ。

そして、……叔父の死。

母親が、俺を見る目は、“恐怖”に凍り付いていた。

あれから、高校へ入学と同時に「自立心を付けなさい」と、一人暮らしをよぎなくされた。
それは、つまり家を追い出されたようなものだ。
だが、俺自身も、いつも怯えたような目の両親と共に生活するのは気が引ける。
ごくごく普通の両親の心の平和を保つためには、これで良かったのだろう。


―自室―

俺は、ベッド脇に置いてある、目覚まし時計を眺めていた。
カチカチと、秒針を刻む音が室内に響く。


『今日、岩崎君のお通夜があるの。これ、会場の住所と時間』


別れ際に美穂から渡されたメモ用紙。
綺麗な文字で、住所と開始時間が記されていた。
既に、開始時間は過ぎている。


美穂は、俺に‘来い’とは言わなかった。
メモ用紙を渡し、少し悲しげに微笑んで、去っていったのだ。

恐らく、今頃、美穂は通夜に出席しているのだろう。


泣いて……いるのだろうか……





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