◆一輪の花?(エムペ版) B 「……と、いう訳で、転校生の尾崎だ。仲良くしてやれよ」 至極、ざっくばらんな紹介を担任である梅崎(ウメザキ)先生が、だるそうにサクッと終わらせた。 教室に入っての第一声がこれって、どうなんだろう。 なんの説明もしていないのと同じだと思うのだけど…… チラリと横目で梅崎先生を見上げてみる。 寝癖が付いたボサボサ髪、無精ヒゲ、くたくたのワイシャツに、これまたのよれよれの白衣。 グレーのスラックスから見える足元は、何故か蛍光ピンクのビーチサンダル。 勿論素足。 梅崎先生は、なんだかとても大胆で大雑把で、それでいて自由奔放な先生のようだ。 因みに職員室に着いた私への第一声が「可哀想に」だった。 ――判らない。 何が可哀想なんだろうか。 「尾崎、適当に自己紹介でもするか?」 欠伸を噛み殺しながら、私に尋ねる梅崎先生。 やる気がないというか、覇気がないというか――男子校の教職員というのは、皆こんな感じなのだろうか。 「……色々とご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」 これからクラスメートになる生徒達に向かい、軽く頭を下げる。 やっぱり全員が男で、本当に男子校に来てしまったんだなと改めて実感した。 「あー、尾崎の席は右端の一番後ろな。周りの奴、面倒みてやれよー」 興味深々といった幾つもの視線を受けながら、指定された席へと行くと前の席に龍兄、隣の席には、今回のボディーガードの対象となる幸田 圭一が座っていた。 「よっ! まあ、何か判らない事があったら何時でも聞いてくれ」 龍兄が、席に着いた私に振り返り微笑む。 これって、やっぱり警護しやすいように仕組んでくれたのだろうか。 「尾崎だっけ? 俺は幸田 圭一。よろしくな」 隣から、明るい声で声を掛けてくれたターゲット。 色素の薄い髪に大きな瞳。 健康そうで、いかにも元気いっぱいって感じで、なんとも可愛らしい雰囲気の少年だ。 「こちらこそよろしく。幸田君」 これが幸田 圭一か―― 普通の一般家庭に生まれた長男。 両親と弟の四人家族で、この春、桜山学園に入学と同時に入寮。 身長一六二センチ、体重五十六キロ、血液型はO型、主だった病歴は無し。 補導歴も無いし、いたって真面目で性格も良い子そうだ。 何故、こんな好少年が狙われたりするのだろう? 龍兄は勿論、兄も理由を教えてくれないからなあ。 『何も詮索せずにガードしろ。そしたら、凛の要求のんでやるよ』 兄の意地の悪い笑みが脳裏に浮かぶ。 あ、なんだか凄くムカついてきた。 でも、まあ、これは自分の未来の為だし、なにより龍兄の為でもあるんだ。 今は、私情は挟まず、目の前にある仕事をこなすのみ。 頑張るしかないんだ。 私は、机の下で拳を握り、自分に気合をいれた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |