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◆一輪の花?(エムペ版)
C


限界まで見開かれた尾崎の瞳から、一筋の雫が流れ落ちる。

「おっ、尾崎!?」

なっ、泣かせた!?俺、泣かせちゃった!?

俺が、うろたえている間も、ぽたぽたと、尾崎の涙がコンクリートの床に落ちていく。

「ごっ、ゴメン。泣かせるつもりなんて、微塵にも思ってなくて、ど、どうしよう」

「ち……がう。幸田君は、何も悪くない。悪いのは僕で……」

尾崎は俯き、両手で顔を覆う。

「なのに、こんな僕と友達になりたいって、言ってくれて――嬉しくて。仕事とはいえ、幸田君に嫌われるのは……やっぱり辛くて、でも辛いなんて、誰にも言えなくて……」

細い肩が小刻みに震え、今にも尾崎が壊れてしまいそうで――心の奥底から何かに急き立てられる。

気が付けば、俺は尾崎を抱きしめていた。

腕の中の尾崎は、一瞬身体を強張らせたが、ゆっくりと力が抜けていくのと比例するように流れる涙の量が増えていく。

堪えたような嗚咽交じりの泣き声。

――尾崎は尾崎で、色んな気持ちを堪えていたんだ。

尾崎は仕事とか抜きでも、元々が優しい奴だと思うから、俺を騙していた事や、拒絶された事なんかは、凄く辛かったんじゃないかって、今なら思える。

辛くても、辛いって言えないのは――多分、そういうのも含めて仕事だから、弱音は吐けなかったんだろう。

俺は、働いた事がないから、尾崎の抱えている辛さや苦しさは判らない。

だけど、俺が思っている以上に尾崎は、沢山のモノを抱えているんだということは判る。

「いいよ、俺が全部聞いてやるよ。他の奴には言えないっていう苦しいとか、悲しいとか、辛いとか、尾崎が溜め込んでる気持ち、全部吐き出しちゃえ。そうやって支え合うのも友情だろ?」

尾崎は、泣きじゃくりながら顔を上げ「ありがとう」と、酷い涙声でお礼を言った後、再び俺の胸元に顔を伏せた。

ぎゅっと、俺のブレザーの胸元を握り締める尾崎が、なんだかとても愛おしく思えて、抱きしめていた腕の力を少し強める。

今はこうやって、少しでも呑み込んだ想いを表に出して、また、あの笑顔を見せて欲しい。




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あきゅろす。
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