◆一輪の花?(エムペ版)
探し人
◆
子守唄のように眠気を誘い、尚且つ、やる気が微塵にも感じられ無い梅崎先生の声を聞きながら、ぽっかりと空いた隣の机をぼんやりと見つめる。
本来ならこの席には、尾崎が座っていて……俺と目が合うと、いつも微笑んでくれた。
――尾崎の奴、何処に居るんだろう。
後、数十分で授業も終わってしまうというのに。
俺は結局、朝から尾崎には会えず、現在、今日最後となる授業を聞いていた。
朝、香山先輩が学校に行くという尾崎に会っていたが……本当に学校に来ているのだろうか。
休み時間は勿論、昼休みには飯も食わず探し回ったけど、見つからなかった。
しかも、龍巳まで居ない。
恐らく龍巳も、尾崎の素性を知っていたんだろうな。
幼馴染だって、言ってたもんな……
自然と沸き起こる大きなため息を吐きながら、なにげなく窓の外に視線をやった。
教室からは、桜山学園のグランドが一望でき、体育の授業だろうか、体操服を着た生徒達が、サッカーを楽しんでいる。
今日は天気もいいし、気持ちいいだろうなあ。
ふと、体操服の生徒と、制服を着た生徒二人がグランドの隅で、話をしている姿が目に付いた。
遠目にだが体操服のゼッケンには‘斉藤’と、確かに書かれている。
もしかして斉藤先輩か?
外見からしても俺の知っている斉藤先輩に酷似しているように見える。
斉藤先輩に似た人から、制服の生徒達へと視線を移すと、再び見知った人物のように見えた。
授業中にも関わらず勢いよく立ち上がり、窓際に立つと、身を乗り出すようにして確認する。
身長が低めの艶やかな黒髪の生徒と、身長もそこそこあり、赤みがかった明るめの茶色い髪の生徒は間違いなく今日一度も顔を合わせていない二人だ。
「やっぱり、尾崎と龍巳だ」
「おーい、幸田? どうかしたかー?」
梅崎先生は、相変わらず、だるそうな表情で俺の隣に立った。
ここで、逃せば、また会えなくなるかもしれない――そんな気持ちで、梅崎先生の両肩を掴んだ。
いつも眠たそうにしている目を珍しく大きく見開いた梅崎先生が「な、なんだ?」と、うろたえている。
「先生! 俺、今すぐ行かないと、一生後悔する事になるかもしれないんです!」
「は?」
「ちょっと“青春”しに行ってきます!!」
俺のセリフに、梅崎先生は一瞬、ポカーンと口を開けて固る。
「い、行ってらっしゃい?」と、梅崎先生が言うよりも先に、俺は疾風の如く、教室を後にしていた。
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