◆一輪の花?(エムペ版)
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外界から隔離するように、カーテンを締め切った一室に凛達は居た。
漆黒の革張りの椅子に龍巳が座り、その椅子の前にある、木細工の細やかなデスクの上には桜山学園の校舎や寮の見取り図、付近の地図などが広げられている。
「この辺りにも、連中を四人程、随時張り込ませておく」
デスク横に立っていた朔が、図面上に赤いマジックで、小さな丸印を付けた。
凛と龍巳、そして五十嵐も確認するように頷く。
「これからは、総勢三十八名で、監視していく事になる。……多少は、安くしておいてやるよ」
朔は、意地悪そうに笑いながら、龍巳を見下ろす。
「はは、そりゃ、どうも」
苦笑いを浮かべた龍巳は、椅子の背もたれに身体を預けながら肩を竦めた。
その様子を見ていた、五十嵐は考え込むように腕を組んだ。
「なー、朔。お前、俺の時はキッチリ料金取ってへんかったか?」
「え? 五十嵐さん、ウチに依頼した事あったんですか?」
凛は、初耳だといわんばかりに驚き、五十嵐を見上げた。
五十嵐は眼鏡のブリッジを中指で押し上げると、過去を思い出すように目を閉じた。
「おー、随分と昔の話であやふや、やけどな。でも確かに、割引してもらわへんかった記憶はキッチリ残っとるで」
「そんなくだらない記憶力だけは立派なんだな」
朔は、冷めた目で隣に突っ立っている五十嵐を見下す。
「阿呆、関西人は事、金に関しては煩いもんなんや」
負けずと言い返す五十嵐に、朔は冷笑を浮かべた。
「ほう、ならば、その半分……いや、十分の一でもいい、自分が遊んだ女達の事ぐらいしっかり記憶しておいてくれ」
四人の間に冷ややかな沈黙が流れた。
龍巳と、凛の冷たい眼差しが五十嵐を捕らえる。
「あー、あはは。おおっと、俺もうじき職員会議だわ。そろそろ仕事に戻るわ。ほな!」
五十嵐は、この空間に居た堪れなくなったのか、疾風の如く部屋を出て行った。
開かれた扉はゆっくりと閉じていき、小さな音を立てて閉まる。
「逃げたか」
「逃げたな」
「逃げたね」
三人は、揃ってあきれた顔で三様のコメントを残すと、直ぐに閉じられた扉から机上の地図に視線を移した。
「さてと、次は……実際に監視しているポイントに行って確認だな」
「うん、そうだね。新しい仲間の顔も確認しておきたいし」
「じゃ、行くか」
椅子から立ち上がった龍巳の言葉を最後に、室内からは人気がなくなった。
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