◆一輪の花?(エムペ版)
B
◆
ジリジリと鳴り響く目覚まし時計を乱暴に止め、ベッドのスプリングを軋ませながら、身体を起す。
頭が重く感じられ、身体も気だるい。
結局あれから、一睡も出来なかった。
昨日の悲しげで、それでも無理やり笑った尾崎の顔が頭から離れない。
俺が怒ったのは正当な理由だし、傷つけられたのも俺の方なのに――なぜだか、俺が尾崎を傷つけた気分だ。
なぜ、そんな気分になるのか。
答えは、もう……分かっている。
「おや? 幸田君、尾崎君に用事かい?」
俺より先に、尾崎の部屋の前に居た美咲先輩が声を掛けてきた。
「……ええ、まぁ。尾崎は?」
昨日の事もあり、気まずい気分になりながらも美咲先輩に問う。
美咲先輩は、軽く肩を竦ませ、尾崎の部屋のドアを眺めた。
「それが、どうやら留守のようだ。先程から、ノックをしているのだが、応答がないし、中に居る気配もない。……もしかしたら、食堂だろうか?」
俺は自分の携帯電話を取り出し時計表示に目をやる。
示されている時間は、七時十分。
食堂が開くのは、六時半からだから、その可能性も大いにある。
俺は、美咲先輩に「失礼します」と、断りを入れながら、踵を返し食堂に向かって走り出した。
食べ物の匂いが充満する食堂では、時間が早い所為か、食事をしている生徒は、かなり疎らだ。
おそらく、ここに居る彼らの殆どは、部活の朝練に行く生徒達なのだろう。
食堂の中を周り、尾崎の姿を探すが見当たらない。
「あれえ? 幸田君?」
背後から声を掛けられ、振り返ると、微笑を浮かべた香山先輩の姿があった。
「……香山先輩、おはようございます」
「はい、おはよー。幸田君が、こんなに朝早く食堂に来るなんて、珍しいですねえ。いつもなら、後三十分ぐらいは遅いのに」
「あ、今日は……その、尾崎を探していて」
「尾崎君? 尾崎君なら、もう寮を出て行きましたよー?」
「えっ」
驚きの声を上げた俺に、香山先輩は苦笑いを浮かべた。
「朝、たまたま会いましてね。仕事のプランが変わったから、早めに学校に行かなきゃいけないって言っていましたよ」
「――仕事のプラン?」
昨夜の尾崎の言葉が脳裏に蘇る。
『これからは、あまり幸田君の視界に入らないように警護するね。見張られて、嫌かもしれないけど、事が終わるまで我慢して欲しい』
――もしかして俺は、このまま尾崎に会えなくなってしまうのだろうか。
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