◆一輪の花?(エムペ版)
K
◆
霧のような雨が降る中、俺は乱れた呼吸を整える事も忘れ、暗い空を仰いた。
星一つとして、見えない天上から、漆黒の粒が舞うように降り注ぐ。
徐々にしっとりと水分が、自分を包んでいくのを肌で感じる。
怒りの衝動に身を任せ、屋上まで階段を一気に駆け上がってきた。
三階分丸々、全速力で上がってきたのだ。
普段なら、疲労感を感じる筈だが、今の俺には疲労感よりも胸の痛みが身体を支配していた。
「……なんで……尾崎の奴……」
尾崎が転入してきて、一週間。
たった一週間だが、いつも、あいつの傍に居たのは俺なのに……俺は、尾崎の事、何も知らなかったんだ。
美咲先輩は、最初から知っていたのか?
あの場に居た香山先輩や斉藤先輩も?
俺達の友情ごっこを見て、影で笑っていたのか?
込み上げてくる悔しさを前に俺は俯き、音が鳴るまで歯を食いしばる。
今日俺を助けてくれた事だって、尾崎にすれば仕事の一環だったんだ。
尾崎の傍は居心地がよくて、仲良くしたくて、仲良くなりたくて、一生の親友になれるんじゃないかって、本気で、そう思ったのに……全部、偽りだったんだ。
あの笑顔も、気遣いも、俺を思ってくれてるような素振りも、全てが、仕事の為の演技にしか過ぎなくて――
屋上の扉が甲高い軋み声を上げ、開いた。
室内の光を背負い誰かがこちらに近付いてくる。
「よかっ……ここに……いたっ……」
扉が重い音を立てて自然に閉まり、光が遮られる。
遠くで光る僅かな街灯の灯に照らされる中、俺の目に映ったのは、ゼイゼイと肩で息をしている尾崎の姿だった。
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