◆一輪の花?(エムペ版)
G
僅かな音を立て、コーヒーの入ったマグカップがテーブルの上に置かれる。
「そうか結局、犯人は判らず仕舞いか……」
凛の報告を聞いた美咲は、ため息混じりに呟くと、絹のような髪をゆっくりとかき上げた。
「今後の対策として、上は、今まで以上に人員を増やすと言っていました。明日には、正式な人数も判ると思います」
美咲は‘そうか’と、いうように正面の床に正座する凛に軽く頷く。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「美咲先輩は、幸田君が狙われる理由を知っているんですか?」
「――尾崎君は聞いているのかい?」
瞳を伏せ、顔を横に振りながら、凛は膝の上で拳を握った。
「やはり、聞いていないか……」
美咲は、ソファーから立ち上がると、凛の前で床に膝を付く。
上体を少し折り凛の顔を覗き込みながら、握られた拳にそっと手を添えた。
「私も全てを知っている訳ではないが……尾崎君よりは多少は聞いている。時が来れば、理事長が話をするだろう。まあ、私は尾崎君にも幸田君にも事情を話すべきだとは思うのだがね。話さないのは、理事長の優しさ――なんだろうな」
長い睫に縁取られた瞳を細め、美咲は苦笑する。
「優しさ」
凛は眉間に皺を寄せ、考え込むようにポツリと呟く。
そんな、凛の頭を香山が、ポンポンと撫でた。
「今日は疲れているでしょうから、あんまり考え込まないほうがいいですよ?」
香山に続き、ベッドに腰掛けた斉藤が、俯いたままの凛を見下ろしながら口を開く。
「今夜は余計な事は考えずに寝ろ。ボディーガードは身体が資本なんだろ?」
凛は、顔を上げると、表情をゆっくりと笑顔へと変えていく。
「香山先輩、斉藤先輩……ありがとうございます」
「ボディーガードって、なんの話なんだ?」
突然、ここには居ないはずの人物の声が、室内に響いた。
凛達は一斉に声のした方に視線を向ける。
視線の先には、ドアにもたれ掛かった秋月と、呆然としたような幸田の姿があった。
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