◆一輪の花?(エムペ版)
F
※
黒の革張りベッドに、シンプルなデザインのシルバーのデスクセット。
デスクの上には、美咲愛用のノート型パソコンと整理された教本が置かれている。
部屋の中央には磨き上げられた、ガラス製の長方形テーブルと、二人掛けの黒色のレザーソファー。
そのソファーに、美咲は長い足を組みながら腰を落ち着けていた。
硬質な音と共に斉藤と、香山が我が物顔で室内に入ってくる。
「おや? 尾崎君は、まだのようですね」
香山は、室内を一度見渡してから、手に持っていたトレーをテーブルの上に置く。
トレーの上には、マグカップに入った、湯気の立ち昇るコーヒーが四つ。
調理場の従業員に頼んで、入れてもらったコーヒーだ。
「そろそろ来ると思いますが……」
美咲はジーンズのポケットに入れていた携帯電話を取り出し、開こうとした時、控えめにドアを叩く音がした。
「来たようだな」
ドアに一番近い位置に立っていた斉藤が、扉を開ける。
「こ、今晩は」
扉の向こうには、突然開いたドアに驚いた様子の凛の姿があった。
「ああ、……入れ」
「あ、はい。お邪魔します」
室内に入り、美咲達に軽く頭を下げる凛の顔は、少し強張って見える。
緊張している凛を安心させるように、美咲は優しく微笑みながら、ゆっくりと立ち上がった。
「疲れているところ呼び立てて、すまなかったね」
廃墟ともいえる老朽化が進んだビルが見下ろせるビルの一室で、一人の男が通話の切れた携帯電話を見下ろした。
「いい捨て駒だったんだけどなあ、やっぱり馬鹿連中は使えなかったか」
溜息を吐き出し、携帯電話のボタンを操作しだした。
淡く光る液晶画面には、いくつもの人の名前が映し出され、男がボタンを押す度に名前が入れ変わっていく。
何度かその行為を繰り返した時、男の指が止まった。
「確か、コイツそろそろキてたよな」
男は口の端を吊り上げると、再度ボタンを押した。
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