◆一輪の花?(エムペ版)
E
◆
「あれぇ? まだ帰ってないのかなあ……」
ノックをしても、呼びかけても応答がない、尾崎の部屋の前で、首を捻る。
助けてくれた、お礼を言いたかったんだけどなぁ。
「おーい、尾崎ぃー、いないのかー?」
再度、呼びかけてみるが、依然、ドアは沈黙を守ったままだ。
――もしかして、もう寝ているとか?
ひんやりとしたドアに自分の耳を当て、物音がしないか中を探ろうとした時、背後から「あのさぁ」と、声を掛けられた。
振り返ると、秋月会長が怪訝な表情をしながら、俺を見ている。
「圭一、お前、不審人物だぞ?」
「ちょ、違いますよ! 俺は尾崎が帰っているかなと思って」
慌ててドアから離れた俺に変わり秋月会長が、ドアの前に立つ。
「――人の気配がしないな。食堂は探したのか?」
「ここに来る前に見てきましたが、いませんでした。多分まだ帰ってないんだと思います」
直ぐ戻るって言っていたのに……尾崎の奴、あれから何処に行ったんだろう。
「何かあったんでしょうか」
「そうだなあ、あんな事があった後だし……」
秋月会長は腕を組み、宙を見つめる。
「玲に聞きに行ってみるか。あいつなら、何か知っているんじゃねーか?」
そう言えば、あの時、尾崎は美咲先輩に何かを耳打ちしてたよな。
一体、何を?
――美咲先輩には言えて、俺には言えない事だったのだろうか。
そう思うと、胸の奥底から、湧き上がるドロリとした不快なモノが、酷く気持ち悪く感じた。
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