◆一輪の花?(エムペ版)
B
「それにさ、女性のボディーガードの中では、凛(リン)が一番の手練だろ?」
「一応……そうだけどさ、でも、女の私が男子高校生っていうのも無理があるんじゃない?」
私は、龍兄に制服であるブレザーの端を軽く摘んで見せた。
「ん? そんな事ないよ。とっても可愛らしい男子学生に見えるよ。……そうだなあ、ターゲットの圭一といい勝負なんじゃないかな? あいつも可愛い顔してるぞー」
龍兄は、眩いぐらいの輝かしい笑顔を私に向ける。
その瞬間、私の心の内を表すように、眉間に皺が寄っていくのが自分でも判った。
――なんだか、とてつもなく複雑な気分なのは、気のせいじゃないよね?
一応これでも女の私と、男の子を比較するなんて……
しかもいい勝負って……
身体の奥深い所から、モヤモヤとした物が沸き起こる。
「ほら、そろそろ行かないと。転校初日から遅刻しちゃうぞ?」
私の心情など全く察していない様子の龍兄が、穏やかな笑みを向けてきた。
悪気も嘲笑も一切含まない、優しい笑顔。
在るのか無いのか判らない乙女心にかるーくジャブを打ち込んでくれたんだけど、本人はそんな事をしたという自覚がない。
判ってる。龍兄は昔から、こういう人なんだ。
心の中で溜息を吐き出し、気を取り直す為に笑顔を作る。
「そうだね、行こうか」
だけど、私をとても大切に思ってくれているのは確かで……私にとって、もう一人の兄のような存在で、信頼している。
そんな龍兄も一緒なら、更に心強い。
門から校舎へと続くアスファルトの道の脇には、すっかり花びらが無くなった桜の木が、等間隔で植えられ、瑞々しい葉を揺らしている。
更にその後方では、白を基調とした五階立ての校舎が、清らかな朝日を受け淡く照らされていた。
今日から此処で、新たな仕事が始まる。
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