◆一輪の花?(エムペ版)
F
空から次々と降り落ちる雫のおかげで、髪は勿論、ブレザーやワイシャツもしっとりと、水気を含んでいる。
悲痛な呻き声と共に、最後の一人が顔面から地面と熱烈なキスをしながら眠りに落ちた。
「――嘘だろ」
数分前まで元気よく絡んできていた、男達の成れの果ての姿に、俺は呆然とする。
舞を踊っているような、機敏でしなやかな動き。
なのにも関わらず殆ど一発で、相手の意識を無くさせている。
けして、背が高いと言えない俺よりも背が低くて、華奢な体付きをしているのに、十分と掛からない短時間で六人の人間を一人で、片付けるなんて……
尾崎って一体何者なんだ?
俺の視線に気付いた尾崎は、しっとりとした黒髪から顎に伝う雨水を袖で拭いながら、赤く形のよい唇で弧を描く。
その微笑に、ギュっと、胸を掴まれるような感覚が、身体に走った。
あ、あれ?
なんだろ、尾崎が、凄く可愛く見える。
いや、前から可愛い顔をしてはいたんだけど――雨で濡れているからだろうか、いつも以上に色っぽいというか、なまめかしいというか……
「幸田君、大丈夫だった? 何処も怪我してない?」
ボーっと、尾崎の姿に見とれていた俺の視界に、尾崎の顔がアップで映し出された。
濡れた睫の下にある黒色の瞳が至近距離に迫っていて、うっかりしていると飲み込まれそうな気さえする。
「だ、大丈夫!!」
咄嗟に身体を引き、答えた俺の声は綺麗に裏返っていた。
尾崎は、少し驚いたような顔をしたが、直ぐに「良かった」と、微笑む。
心の底から、男でいるのが勿体無いんじゃないかと思える微笑は、その辺の女の子達より断然可愛い。
今更ながら、秋月会長が尾崎にちょっかい出すの……なんとなく気持ち判るかもしれない。
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