◆一輪の花?(エムペ版)
降り出しそうな雨
◇
書類がめくられる音や、キーボードを叩く音に紛れるように、少し開けられた窓から、部活動に勤しむ生徒達の掛け声が聞こえてくる。
「会長、総会の進行順の事なのですが……」
「ああ、PTAだろ? あの、おばさん話し長いからなあ」
美咲先輩と秋月先輩の会話を背後から聞きながら、私は香山先輩と共に書類の分類に勤しんでいた。
幸田君は、自身のデスクで書類に何かを書き込んでいるようだ。
こんな光景も日常となりつつある生徒会室に、出払っていた斉藤先輩が戻ってきた。
「美咲、一応あの件は保留にしてくれとの事だ」
「そうか、判った。手間掛けさせたな」
「いや。……尾崎」
「はい?」
斉藤先輩の呼ぶ声に顔を上げると、切れ長な瞳が真っ直ぐにこちらを向いている。
「『五分以内に保健室に来い』五十嵐先生からの伝言だ」
ゲッ、五十嵐さん!?
私の中の会いたくない人ランキング、第一位の五十嵐さんですか!!
行きたくない――けど、行かないと駄目だよねえ。
「……判りました」
精神的に重く感じる身体を、気力で立ち上がらせる。
「大丈夫ですかー?」
向かい合って作業していた香山先輩が心配そうに顔を覗きこんできた。
億劫な気分が表情に出ていたのだろうか。
私は出来るだけ、笑顔を意識し「大丈夫ですよ」と、答えた。
……本当はかなり嫌だけど、無視したら、言付を頼まれた斉藤先輩に迷惑がかかってしまうし。
心の中でひっそりと溜息を付き「じゃあ、ちょっと行ってきますね」と、声を掛ける。
『いってらっしゃい』という生徒会メンバーの返事を背中に受け、生徒会室を後にした。
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