◆一輪の花?(エムペ版)
D
無造作というか、斬新というか、白い生地に無数に青色の模様が入っている。
「……そのワイシャツ、学園指定のワイシャツですよね?」
幸田君が眉を八の字に下げ、ワイシャツを指差した。
確かによく見てみると、胸ポケットの上に桜山学園の校章が、臙脂色の糸で刺繍されている。
「そうなんですよ。うっかり下ろしたてのデニムと一緒に洗ってしまいまして」
香山先輩は、困ったように笑いながら「これ、もうどうにもなりませんよねぇ?」と、幸田君に伺う。
「うーん、幸い刺繍のところには色付いていないし、漂白剤を使えばいけるかもしれません。ですが、少し生地を痛めるかもしれないのと、広範囲ですので時間掛かりますよ?」
「構いませんよ。どうせこのままだと捨てる事になりますし、時間はいつでも大丈夫です」
「じゃあ、お預かりします」
幸田君は香山先輩からワイシャツを受け取ると、改めてしげしげとワイシャツを眺める。
そんな幸田君を見ながら、香山先輩は、小さく微笑んだ。
「ねえ、尾崎君。幸田君はいい主夫になれそうだと思いませんか?」
「ちょっ、急に何を言い出すんですか!?」
僅かに顔を赤らめた幸田君が、慌てて此方を振り返る。
「尾崎君知ってます? 幸田君、裏で“オカン”って呼ばれていて、上級生にも有名なんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、時々、調理場借りて、お菓子作りしているとか、裁縫なんかも得意で、ボタン付けに一分掛からないとかって聞きますよ」
「へえ。凄いですね」
そういえば、私、料理とか裁縫って殆どした事ないや。
――女の子として、これってどうなんだろう。
「幸田君を嫁に欲しいって、言ってる生徒もいますよ。僕も実際に聞きましたし」
「そんなふざけたこと抜かしてる奴は、どこのどいつですか」
肩を落としながら深い溜息を吐き出す幸田君に香山先輩は、爽やかな笑顔を向けた。
「モテモテですね。幸田君」
「全然、嬉しくないです」
これでもかって、云わんばかりに眉間に皺を寄せる幸田君は、心底不服なようだ。
「ま、まあ、いいんじゃない? 嫌われるよりは、好かれてる方がいいと思うし」
「他人事だと思って」
「そんな事ないよ。えぇっと……」
どう、慰めればいいのか判らず、あたふたしていると、腕時計を見ている香山先輩が声を上げた。
「もうこんな時間ですね。二人とも、朝食はもう済みましたか? 急がないと時間なくなりますよー」
香山先輩は、私達に時計を見せるように腕を出す。
時間を見ると既に七時半を過ぎていた。
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