◆一輪の花?(エムペ版)
A
「どうなのでしょう? って、自分の事じゃないか」
秋月先輩は、くっくっと声を押し殺して笑う。
「ま、俺的には余り筋肉は付けないでほしいかなー。せっかく細い腰している訳だし」
そう言うと、私の腰をやんわりと撫でるように触ってきた。
「なっ!?」
突然のセクハラともとれる行為に身体が硬直する。
生徒会室に足を運ぶ度、秋月先輩にはこういった行為をされているのだが、どうにも慣れない。
鳥肌が全身に出現した時、ボスッッ!!と、空気を含んだ音が間近で鳴った。
「おわっっ!?」
ふと、顔をあげると、秋月先輩の顔に何かが直撃している。
「何これ?」
秋月先輩の顔面を襲撃したのは、ぐちゃぐちゃに丸められた薄い水色をした布。
おそらく布団用のシーツだ。
「尾崎! 大丈夫か!?」
そのシーツの持ち主らしき人が、私の背後から声を掛けてきた。
寝起きなのだろうか、寝癖のついた髪のまま、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「幸田君。おはよう」
「おー、おはよう……じゃないよ! いつも言っているだろう。秋月会長には近付いちゃ駄目だって! この人は、男女構わず自分が気に入った人にセクハラして回る様な人なんだから気を付けなくっちゃ!!」
「う、ごめんね」
「……けーいちー」
秋月先輩は身体に纏わりついたシーツを両腕に収めながら、恨めしそうに幸田君に向き直った。
「秋月会長も! あれ程、朝帰りとセクハラは謹んで下さいと言っているのに!!」
「いや、だって、それが俺の生きがいだし……」
「そんなしょうもない生きがいは、今すぐにゴミ箱にでも捨ててください」
「えぇえー」
「えぇえー、じゃありません」
「そんな事をしたら、俺が俺じゃなくなるじゃないか! 皆を悲しませる事になるんだぞ!?」
「何とんちんかんな事言ってるんですか。むしろ平和になって、皆が感涙しながら喜びますよ」
幸田君はいつもの如くキッパリと言葉を発する。
「相変わらず、圭一は冷たいなぁ」
そういうと、秋月先輩は背中に哀愁を漂わせながら、とぼとぼと寮内に消えていった。
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