◆一輪の花?(エムペ版)
事件前の静けさ
◇
私が転入して、既に一週間が過ぎようとしていた。
寮生の幸田君に合わせ、私も無事に入寮を果たした。
男達だけの中で過ごさなければならない不安はあるものの、寮は個室だし、寮長の香山先輩や同じ寮生の美咲先輩、斉藤先輩の手助けもあって、最近ようやく、ここの生活にも慣れてきたところだ。
ターゲットの幸田君は生徒会役員でもある為、放課後は私も半強制的に、役員の仕事も手伝いながら、警護をするといった毎日を過ごしていた。
****
早朝の朝日に照らし出されている寮は、屋上付きの三階建てのシンプルな建物だ。
壁はベージュで統一され、黒枠の窓が規律正しく並んでいる。
寮の向かいには、学校のグラウンドの半分程の大きさの公園があり、遊具は少ないが、草木が多く植えられていて、散歩なんかに丁度いい。
私は荒くなった息を整えながら、公園の入り口付近にタオルと共に置いていたスポーツドリンク入りのペットボトルのキャップを捻った。
少し冷えた空気と、咽喉を流れる液体が、火照った身体に心地いい。
「あれー? そこに居るのって凛君?」
聞き覚えのある声に振り向くと、一人の男性がこちらに近付いてくる所だった。
男性の赤髪が、朝日によって、いつも以上に赤く見える。
「秋月先輩。おはようございます。また朝帰りですか?」
秋月先輩は、ちょくちょく寮を抜け出したは、こんな風に朝帰りしている。
生徒会長自らが、こんな乱れた生活でいいのだろうか。
「あははは。凛君は? こんな朝っぱらから何してんの?」
全く悪びれたそぶりも見せず、秋月先輩は私の顔を覗きこんできた。
気持ち半歩後ずさり、少し身構える。
「僕は、トレーニングですよ」
職業上、朝晩のトレーニングは欠かさないようにしている。
本来なら、コレに実戦練習なども付け足したい所なのだが、練習相手になってくれる人が居ないので、こればかりはどうしようもないのが現状だ。
感覚がなまってなければいいのだけど。
「へえ、凛君は身体鍛えるが好きなわけ?」
「――さあ? どうなんでしょう?」
ボディーガードという仕事は、天職だと思える程好きだが、身体を鍛える事が好きなのかと聞かれてしまうと正直、悩む。
この仕事自体、身体が資本だからこそ、毎日こうして鍛えている訳であって、身体を鍛えるのはメインではないから、違う。と、いうべきなのか?
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