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◆一輪の花?(エムペ版)
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ネクタイを引っ張られた状態のまま引きずられるように連れて行かれる龍巳と、引きずっている張本人の尾崎を黙って見送る。

なぜ、こんな流れになったのか、全く判らない。

五十嵐先生は、未だ痛むらしい足を擦りながら、椅子の上で蹲っているし……。

転入してきた尾崎と龍巳は、幼馴染なのだとは聞いたが、五十嵐先生まで知り合いだったとは――戸惑いなく足を踏みつけれるぐらいだ。それぐらい気心の知れた間柄なんだろうな。

――そういえば。

「斉藤先輩、怪我は大丈夫なんですか?」

慌てて椅子に座る斉藤先輩を振り返る。

怪我をした額には既に手当てが施されており、真っ白なガーゼが傷痕を覆っていた。

「大事無い」

しれっと、答える斉藤先輩に続き五十嵐先生が顔を顰めながら口を開く。

「傷口はそない深くはなかったし、既に出血も止まっててるぞ。多分、傷跡も殆どの残らんやろ」

「そうですか」

心底ホッとし、胸を撫で下ろす。

「あ、五十嵐先生も足、大丈夫ですか? 尾崎に思いっきり踏まれてたみたいですけど……」

「あー、ごっつ痛いけど大丈夫や。ま、そもそも俺が凛をからかったのが悪かったんやけどな。ホンマ短気なやっちゃ」

五十嵐先生は、苦笑交じりに嘆息し、眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。

「ところで、幸田は尾崎と仲ええんか?」

「はい。尾崎、結構いい奴だし仲良くさせてもらってます」

最初、とっつき難い奴かとも思ったけど、話してみれば気さくな奴だし、微妙に呆けたとこあるけど、気遣いばっちりだし、これからも仲良くしたいし、なれそうな気がする。

「そうか」と、笑う五十嵐先生は、安堵した表情で頷いた。

「そういえば、五十嵐先生と尾崎って知り合いだったんですね」

「ん? ああ。凛の兄貴とは親友でな」

「尾崎って、兄弟いたんだ……」

思いもよらなかった所から、尾崎の新情報をゲットだ。

そうか、という事は、尾崎は末っ子か。

「なんや、まだ聞いてなかったんか? 凛の兄貴はな、凛以上に気短くて鬼畜で凶暴なんやで? それでいて変に頭回りよるから、常に隙見せんように気ぃ張らなあかん。付き合いも一苦労なんや」

「――なんでそんな人と、友達やってるんですか」

しかも親友なのに隙を見せられないって、隙見せたら何をされるんだろう。

「幸田は、まだまだお子様やなー。人生にはなスリルっていうスパイスが必要なんよ」

ふっと、自慢げに鼻で笑う五十嵐先生をぼーっと見る斉藤先輩が「スリル……要らない」と、小さく呟いた。

俺も、斉藤先輩の呟きに賛同し頷く。

この先の未来、出来る限り平穏な日常を望みたい。

危険なスパイスを味合うのが、大人の嗜みなら、もういっそ、俺は一生お子様のままでもいいと思う。




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