◆一輪の花?(エムペ版)
はじまり
◇
私は、目前に広がる光景を前に思わず立ちすくんでしまった。
兄の頼み――と、いうより、ある交換条件のもと、私は、とある学校の入り口に立っているのだけど……まるで吸い込まれるように学園の門を潜っていくのは、見事に男のみ。
右を見ても、男。左を見ても男。正面も男なら、後ろも男。
そう、私が思わず立ちすくんでしまった理由だ。
此処は、エリートを輩出する高校として有名な桜山学園。
街と住宅街の狭間に位置し、地方から入学してくる生徒も多い為、半数以上の生徒が、学園が運営する寮で生活している。
桜山学園の卒業生は、財界、政界、スポーツ、文学等などに幅広く存在し、それぞれ名高い功績を挙げ、日々桜山学園の名を広めているらしい。
私は、そんな名門校の門で、自然と引きつる頬に手を添え胸の底から溜息を吐き出した。
「話には聞いていたけど、本当に男しかいない……」
「あはは、そりゃあ、男子校だしな。男ばかりで当たり前だよ」
そう隣で明るく笑い飛ばすように話す人物は、若林財閥の御曹司であり、この学園の理事長でもある、若林 龍巳(ワカバヤシ タツミ)だ。
臙脂色のブレザーにグレーのスラックス、濃緑のネクタイといった私と同じ、この学園の制服を着ているが、年齢は高校生の年代から七、八年ほど離れていたりする。
龍兄の顔は、見事な童顔なので見た目は然程、違和感は無いのだが――雰囲気がやはり現役の高校生とは違うような気がしてならない。
「龍兄、やっぱりその歳で高校生は無理があるんじゃない?」
私は小さく呟くように進言する。
龍兄は、壮麗で爽やかな笑顔を浮かべながら、私の左右の頬をグイッと、引っ張った。
「りーん? それは禁句だろお? 朔(サク)に“凛が仕事しない”って言い付けるぞお?」
「い、いひゃい、いひゃい、わっはったはら、いっはあらないれー」
※い、痛い、痛い、判ったから、引っ張らないで!
「判れば、よーし」
龍兄は、満足そうに頷いて、頬から手を離す。
「ううっ、ほっぺたがヒリヒリするよー」
「しかし朔も、よくこんな仕事了承したよなあ。まあ、頼んだのは俺だけどさ」
栗色の細い髪を軽くかき上げながら、龍兄は肩を竦めて見せた。
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