◆一輪の花?(エムペ版)
A
それにしても、こんなに都合よく五十嵐さんがいるのは、明らかにおかしい。
考えられるのは――
ゆっくりと龍兄の方へ顔を向けると、引き攣った笑顔で、あからさまに視線を宙に泳がせている。
私は、顔面いっぱいに微笑みを造ると龍兄のネクタイを掴み「ちょっと失礼します」と、呆然としている幸田君達に声を掛け、そのまま龍兄を引きずるようにしながら保健室を後にした。
保健室から少し離れた場所で足を止め、龍兄の方へ振り返る。
「さてと、説明……してくれるよね?」
私は声のトーンを最大限に落とし、ドスを効かせて龍兄に詰め寄った。
「アハハハ、やだなー、凜ったら、顔が恐いぞお」
そう言うと、龍兄は人差し指で私の額を軽く突つく。
この期に及んでも、まだ白を切ろうとしているようだ。
そっちがその気なら、やってやろうじゃないか。
私は口角を上げ、龍兄に笑いかけた。
龍兄もつられるように、へらりと笑う。
そして私は、掴んでいたネクタイゆっくりと力を入れ、徐々に締め上げていった。
「グッ、す゛、す゛い゛ま゛ぜん゛、俺が悪がっだデス! 話じまずから勘弁しで下サイ!!」
顔を赤くしながら、私の手をパシパシと叩く龍兄の言葉を聞き、掴んでいた手をパッと離してやる。
同時に、龍兄は、ゼハァーと大きく息を吐いた。
「こ、こういう所は朔にそっくりだ」
「そりゃ、どーも。で、なーんで、五十嵐さんが此処にいるの?」
私は腕を組みながら改めて、龍兄に問いかける。
すると、パンと、音を立てて龍兄は自分の顔前で手を合わせた。
「すまない」
「龍兄?」
「凜が、五十嵐との婚約解消の為に、この仕事受けてくれたというのは重々、承知している」
目を伏せ、口を閉ざした龍兄の表情は、酷く辛そうに見えた。
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