◆一輪の花?(エムペ版)
プロローグ
ハサミが自由自在にリズムよく動かされ、耳に心地よい音を奏でている。
パラパラと、床に落とされていく髪の毛。
髪に触れてくる手が、とても気持ちが良くて私は現実と夢の狭間を行ったり来たりを繰り返していた。
「おら、終わったぞ」
乱暴な言葉と額への衝撃を感じ、重い瞼をゆっくりと開く。
目の前には満足そうに口の端を上げ、笑う兄の姿。
短く揃えられた自分と同じ黒髪が軽く揺れている。
「ま、こんなもんだろ。どうだ?」
兄から正面の鏡に視線を向け、自分の姿を確認する。
アンダーバストまであった黒髪が、今は肩に付くか付かないかぐらいまで切られていた。
「長すぎない? 男の子に見えないといけないんでしょ?」
「お前のその顔で、これ以上短くしても不自然だろうが。この俺様が、わざわざカットしてやったんだ。まさかとは思うが――文句あるのか?」
もとから声と目に威圧感という名の凄みを持っている兄が、不機嫌という感情を前面に押し出しながら睨んでくると背筋に寒気が走る程、恐ろしい。
「あ、あるわけないじゃん。えっと、有難うね。兄貴」
「おー、ドウイタシマシテ」
大きな手が、私の頭をワシワシと撫で回してくる様は、相変わらず子ども扱いされているなと悔しく思う反面、何処か温かくて、くすぐったいような気持ちになる。
「あまり無茶するなよ」
「え?」
ポソリと呟くように紡がれた声が、よく聞き取れなくて兄の顔を見上げた。
「なんでもねー」
兄は私の視線から逸らすようにそっぽを向き、再び私の額にチョップのプレゼントを贈ってくれた。
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