B
☆
青年に見下ろされたケイトは、驚いた表情をしながらも、懸命に言葉を発する。
「り、凛様なら、ミーティングルームです」
ケイトの言葉を聞くなり、青年は、弾かれた様に走り出した。
「お待ち下さい!」
走る青年の背中にケイトが大声で呼び止める。
「今、社長がこちらに向かっていますので……」
だが青年の耳には、ケイトの呼び止めなど、全く入っていないのだろう。
青年は失速する気配など微塵にも見せず、あっという間に建物内へと姿を消した。
「はぁっ」と、ケイトが、ため息を吐く。
「い、今のは?」
俺は、額に手を当て疲れた表情のケイトと、青年が消えた入り口とを交互に見比べる。
「申し訳ありませんが、説明は後ほどでも構いませんか?私はあの方を追い掛けなくては、なりませんので」
言うが早いか、ケイトは地を蹴り走りだした。
軽快にヒールの音を鳴らし、柔らかそうな金髪が、風になびく。
凛の居場所を聞いてきた、あの青年は……凛の下へ行ったんだよな?
だったら――
「追いかけるか?」
隣に立っていた斉藤の問いかけに、俺は大きく頷いた。
――ミーティングルーム――
「キツイか?」
背後の龍兄が、心配そうに私を見つめてくる。
私は、首を横に振りながら微笑みを龍兄に向けた。
「大丈夫だよ」
「もう少しイケルか?」
「うーん、あと少しぐらいなら……」
少しぐらいなら大丈夫そうだが、あまりキツクされると、内蔵が飛び出しそうだ。
自分も女の身なのだが、それでも、女性って大変だと改めて思う。
そんな事を考えていた矢先、猪でも衝突してきたような音がした。
音の方を振り返ると、開け放たれた扉の中心で、一人の人間がこちらを見て硬直していた。
私と龍兄も、突然の出来事に驚き、扉の前の人物を見たまま固まる。
襟足の長い黒い髪に黒い目。
スラリとした長身に整った容姿。
この人は――。
数秒間の沈黙の後、扉の向こうに、更に人が増えた。
「スイ様、お待ち下さいと――り……んさま?」
私に視線を向けた瞬間、少しずつ目を見開いていくケイトの後ろには、圭一や斉藤先輩、秋月先輩に香山先輩、美咲先輩の姿も確認できる。
「おやおや、もしかして、お邪魔でしたかねー?」
香山先輩が、嘘くさい笑顔を顔に貼り付け、私達に問いかけてきたが、私が返答する前に、怒りを全面に押し出した圭一が、怒鳴り声を上げた。
「たーつーみぃぃ!!凛に何してんだよっ!!」
現在の私は、ドレスの下に着る白いオーバーバストタイプのコルセットにショーツ、更にはガーターベルトを着用中。
「えっ、いや、これは、その」
つまりは、下着姿というヤツで――龍兄は、私が着ているコルセットの紐を持ったまま、おろおろとしている。
これは……
「えっ?えっ?なに?凛君達、もしかしてそういう関係なの?」
もしかしなくても――
「理事長が未成年に淫行ですか」
「問題だな」
勘違いされているよね……
「コロス」
最初にこの部屋に突入してきた人物が、低く呟くと、私達の方へと突進してきた。
床を蹴り、その反動のまま片足が上げられるのを目の端で捉え、私は咄嗟に、龍兄の頭を自分に引き寄せそのまま床に倒れこむ。
倒れこむ寸前に目の前をキレのいい蹴りが空中を切っていた。
☆
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