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B



青年に見下ろされたケイトは、驚いた表情をしながらも、懸命に言葉を発する。

「り、凛様なら、ミーティングルームです」

ケイトの言葉を聞くなり、青年は、弾かれた様に走り出した。

「お待ち下さい!」

走る青年の背中にケイトが大声で呼び止める。

「今、社長がこちらに向かっていますので……」

だが青年の耳には、ケイトの呼び止めなど、全く入っていないのだろう。

青年は失速する気配など微塵にも見せず、あっという間に建物内へと姿を消した。

「はぁっ」と、ケイトが、ため息を吐く。

「い、今のは?」

俺は、額に手を当て疲れた表情のケイトと、青年が消えた入り口とを交互に見比べる。

「申し訳ありませんが、説明は後ほどでも構いませんか?私はあの方を追い掛けなくては、なりませんので」

言うが早いか、ケイトは地を蹴り走りだした。

軽快にヒールの音を鳴らし、柔らかそうな金髪が、風になびく。

凛の居場所を聞いてきた、あの青年は……凛の下へ行ったんだよな?

だったら――

「追いかけるか?」

隣に立っていた斉藤の問いかけに、俺は大きく頷いた。


――ミーティングルーム――


「キツイか?」

背後の龍兄が、心配そうに私を見つめてくる。

私は、首を横に振りながら微笑みを龍兄に向けた。

「大丈夫だよ」

「もう少しイケルか?」

「うーん、あと少しぐらいなら……」

少しぐらいなら大丈夫そうだが、あまりキツクされると、内蔵が飛び出しそうだ。

自分も女の身なのだが、それでも、女性って大変だと改めて思う。

そんな事を考えていた矢先、猪でも衝突してきたような音がした。

音の方を振り返ると、開け放たれた扉の中心で、一人の人間がこちらを見て硬直していた。

私と龍兄も、突然の出来事に驚き、扉の前の人物を見たまま固まる。

襟足の長い黒い髪に黒い目。

スラリとした長身に整った容姿。

この人は――。

数秒間の沈黙の後、扉の向こうに、更に人が増えた。

「スイ様、お待ち下さいと――り……んさま?」

私に視線を向けた瞬間、少しずつ目を見開いていくケイトの後ろには、圭一や斉藤先輩、秋月先輩に香山先輩、美咲先輩の姿も確認できる。

「おやおや、もしかして、お邪魔でしたかねー?」

香山先輩が、嘘くさい笑顔を顔に貼り付け、私達に問いかけてきたが、私が返答する前に、怒りを全面に押し出した圭一が、怒鳴り声を上げた。

「たーつーみぃぃ!!凛に何してんだよっ!!」

現在の私は、ドレスの下に着る白いオーバーバストタイプのコルセットにショーツ、更にはガーターベルトを着用中。

「えっ、いや、これは、その」

つまりは、下着姿というヤツで――龍兄は、私が着ているコルセットの紐を持ったまま、おろおろとしている。

これは……

「えっ?えっ?なに?凛君達、もしかしてそういう関係なの?」

もしかしなくても――

「理事長が未成年に淫行ですか」

「問題だな」

勘違いされているよね……

「コロス」

最初にこの部屋に突入してきた人物が、低く呟くと、私達の方へと突進してきた。

床を蹴り、その反動のまま片足が上げられるのを目の端で捉え、私は咄嗟に、龍兄の頭を自分に引き寄せそのまま床に倒れこむ。

倒れこむ寸前に目の前をキレのいい蹴りが空中を切っていた。





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