招かざる客
☆
―ミーティングルーム―
「なんや凛、胸、全然育ってへんのとちゃうか?」
五十嵐は、ニヤついた笑みを浮かべながら、舐めるような視線を私に向けてくる。
毎年のように言われ続けてきた五十嵐のこの言葉には、既に怒りは感じない。
怒りより“またか”という、呆れの方が大きいのだ。
「ほうっておいて下さい」
胸が小さかろうが大きかろうが、私には、どうでもいい事だ。
どちらかと言うと、小さい方が動きやすいので、仕事には有利だったりする。
なので、私は、今のままで十分だと思っている。
思っているのに……
「まぁまぁ、そういうなや。なんなら、一丁、俺が揉んだろか?」
五十嵐はしつこい。
ことさら、こういった話には、これでもかと食い付いてくる気がする。
流石は、エロ魔人。
「断固拒否します」
「えー、そんなん勿体ないって。俺、巷では、なかなかのテクニシャンで有名なんやで? このゴッドハンドで何人の女を鳴かせでっ!!」
ワキワキと、いやらしい手つきで空中を揉んでいた五十嵐の頭に兄の鉄拳が飛んだ。
「黙れ。腐れ外道が」
余程、兄の拳が効いたのか、五十嵐は「ふぉぉー」と、よく判らない鳴き声を上げ、頭を抱えた。
「全く、五十嵐も懲りない男だな」
龍兄は、呆れた様子で、ため息をつく。
いつもと変わらない遣り取りが繰り広げられる中、突然、室内に電子音が鳴り響いた。
音源は、ミーティングルームに備え付けられた電話だ。
「どうした」
兄が素早く電話口に出る。
数回「ああ」や、「そうか」という短い応答を繰り返し「判った」という言葉を最後に、受話器を下ろした。
「何かあったの?」
兄の眉間に深い皺が寄せられている事から、あまり良い内容の連絡では無いということが推測できる。
「やっかいな客人が到着するようだ……まぁ、予想はしていたのだがな」
疲れた表情で、そう言うと五十嵐の首根っこを無造作に掴む。
「ちょっと、出てくる。龍巳、後は頼んだぞ」
「判った」
兄は、一つ頷くと、未だ、うめき声を上げている五十嵐を引っ張り、ミーティングルームを出て行った。
――厄介な客人。
確か今日は香山先輩と美咲先輩が此処に来る日だった筈だけど……もしかして厄介な客人って、香山先輩達の事とか?
閉じられたドアを眺め、思案していると、そっと肩に何かが触れた。
仄かに暖かいそれは、龍兄の大きな手。
「朔達が帰ってくる前に終わらせてしまおう」
「……うん」
もう龍兄には、何度も見られているのだが、やはり、こればかりは慣れない。
龍兄は、どこか気遣うような笑みを私に向ける。
「それじゃ、服……脱ごうか」
私は羞恥心で一杯になりながらも、Tシャツの裾を掴んだ。
☆
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