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――俺達が、凛に危害を加える?

ケイトの思いもよらぬ台詞を耳にし、俺は呆然とケイトを見た。

意志の強そうな青い目が、真っ直ぐに俺達に向けられている。

「ちょ、ちょっとまって、俺達は凛君に危害なんて加えませんよー?」

慌てた様子の秋月にケイトは絶対零度の睨みをきかせ「男は信用なりません」と、ぴしゃりと言い放った。

「いいですか?男というのは下半身で物事を考える動物です。そんな下等な生き物に気高く純真で可憐な凛を汚されたくありません。だいたい、この世に男など必要ないのですよ。出来れば、今すぐにでも滅亡していただきたい。男が居るだけで、この世界、身近で言えば、空気すらも汚されていくように思えてならないのです。その空気を吸っている私も汚されているようで、非常に不快です。人類存続には男が必要だといいますが、そんなもの……」

ケイトの形良い唇から発せられる講義に圧倒される秋月を見ながら、斉藤が俺にだけ聞こえる程の音量でボソリと口を開く。

「嫌われているとは思っていたが……根本から嫌われていたとはな」

「……ですね」と、俺は大きく頷いた。

話を聞く限り、ケイトは男というもの自体に嫌悪感を持っているようだ。

だとすれば、男である俺達をケイトが、忌み嫌うのは仕方がないという事で……こうなってくると、俺達にはどうしようもない。

俺達には性転換をする以外にケイトの嫌いな対象から逃れる術はないのだから。

「歴史の中でも男の愚かさが判ります。今日に至るまでどれ程の血が流れてきた事でしょうか。そして未だに無用な血が流れています。それも全て愚劣な男の所為なのですよ。奴等は、自身の欲望のまま欲求を満たそうとする獣です。惨劇を招く悪魔なのです」

悪意の固まりのような講義を間近で聴かされている所為か、秋月の顔色は見るからに悪く「はぁ、はぁ」と、力のない相槌を打っている。

徐々に魚の死んだような虚ろな目になっていく秋月を見て、そろそろ救出した方が良さそうだと判断した俺は、意を決して朗々と流れる『男は最低だ』講座に割り込むことにした。

「ケイトさん!」

「……なんですか?」

そう言ったケイトの冷たい言葉が俺の肌に突き刺さったような錯覚に陥り、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られたが、ここで負けては、秋月の救出が出来ない。

俺は、引きつる頬を何とか宥め、無理やり笑顔を作った。

「そ、そろそろ、香山先輩と美咲先輩が到着するんじゃないですかね?」

ケイトは、何かに気付いたようにシンプルな文字盤の腕時計をチラリと見やる。

「そうですね。では、参りましょう」

クルリと身を翻し、ケイトは何事も無かったように、再びヒール音を高らかに鳴らし歩き始めた。

俺達、男三人は、同時に安堵のため息を吐きだす。

今後、ケイトにはこの手の話は振らないようにしなくては、と、心に強く誓いながら、俺達は勿論、流石の秋月も余計な口は挟まず、黙々とケイトの後を追った。





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