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画像に映る黒っぽい服装の目頭帽を被った男が、口元に何かを押し付け身体を羽交い絞めにしているのは、間違いなく圭一だ。

怒りからか、悔しさからか、自然と震える拳に力が入った。

ザワザワと身体の奥底から、得体の知れないものが這い上がってくる。

「……奴等の居場所の特定を急げ」

兄が指示している声が、何処か遠くから聞こえてきたように感じた。

今見えているモノは、確かに自分が見ているモノなのに、何故だか自分が見ているのだという感覚がない事に気づく。

「兄様、今すぐ、けーちゃんを助けに行かせて」

あれ?
これって、私の声……なんだろうか。

「――っ凛!?」

私を見下ろす兄は、酷く驚いた表情をしている。

「お前、まさか……」

「何が起こっているんだ!?」

兄の狼狽した声とスイの怒声が重なった。

スイは私達を見つけると、一目散に駆け寄ってくる。

綺麗な眉を歪め、兄の腕を力任せに掴んだ。

「ロンが何処にも居ない! あいつ等が言っていた緊急事態ってなんだ!?」

あいつ等と、スイが指を差した先には、おそらくスイをここまで連れてくるように命令を受けた男性従業員が二人立っていた。

「侵入者が建物内に入り込みました」

そう言って、兄の腕を掴んでいるスイの手をやんわりと外したのは、いつの間にか室内に入ってきていたケイトだった。

ケイトの背後には、先輩達の姿も見えた。

「幸田圭一は、連れ去られたんですか?」

ケイトは青い瞳を兄へと移す。

兄は苦虫を噛んだような表情で「ああ」と、頷いた。

「こうなってくると、ロンもその可能性が高い」

圭一のみならず、ロンさんも?

侵入者の目的が、ますます判らない。

ふっと、一瞬、室内が暗くなったような気がした。

「さ、朔様」

コンソールデッキの前に座る従業員が動揺した声を上げる。

「監視カメラの映像がっ!」

映像パネルを見上げると、今まで映っていた画像が点々と真っ黒になっていくのが目に映った。

そして、数秒も経たない内に、黒く塗り替えられるかのように全ての映像が消える。

「えっ、何? ウイルスか何か?」

秋月先輩が目を見開きながら、画面パネルの方へと近付いた。

「いえ、どうやら、ハッキングされたようです。監視カメラの映像だけ使えません」

「復旧は?」

兄の問いかけに、従業員は「……予測できません」と、冷静に、だがどこか悔しそうに答える。

彼等は、コンピュータ関連の育成を受けた、所謂プロフェッショナルだ。

この建物のコンピュータ管理をしているという事は、育成を受けた従業員の中でも秀でた者達だという事。

その彼等が、ハッキングされたとなると、相手も、相当の手錬だという事が判る。

「この局面に監視カメラが使えないのは大きな痛手ですね」

ぽそりと美咲先輩が呟く。

香山先輩は、溜息を一つ吐き出すと、腕を組み、軽く目を細めた。

「不利だけど、こうなってくると人海戦術で探し出すしかないかなあ」

「いえ、相手の目的が判らないなら、迂闊に動かない方が得策でしょう。下手に動いて自分の首を絞めることになるかもしれませんし」

「それもそうか。……で、相手からの要求はあったんですか?」

香山先輩が兄を見上げた時、入り口付近に立っていた従業員の一人が声を掛けてきた。

「その事なのですが、白 崙様の部屋にコレが置いてありました」

そう言って兄に差し出したのは、紫色の封筒。

兄は眉を顰めながら封筒を受け取り、中から一枚の紙を出した。

私の位置からは見えないが、紙面に文字が書かれているらしく、兄の目が左右に動く。

読み終わった兄は、その紙をスイへと差し出した。

「どうやら、侵入者の目的は、劉彗蓮の後継者候補の座を辞させる事のようだ」





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あきゅろす。
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