A
☆
司令室の扉を開いた瞬間、鼻につく機械の匂い。
少し肌寒いこの空間には、半円形の巨大なスクリーンに無数の映像が映し出されている。
これらの映像は全て、この島に取り付けられている監視カメラの映像だ。
スクリーンの手前にあるコンソールデスクには、四人の男性従業員が忙しなく作業をしている。
おそらく侵入者の対応に追われているのだろう。
「来たか」
私に気付いた兄が、僅かに振り返り声を掛けてきた。
部屋の中央に置いてあるコンソールデスクの端に腰を下ろし、コチラに向かって手招きをする。
「侵入者の素性は?」
呼ばれるままに、近付くと、兄は器用に片眉を動かして見せた。
「……いや、まだだ。犯行声明も届いていない」
「そっか。居場所は」
掴めているのかと、問おうとした時、作業をしていた四人の内の一人が、兄を呼んだ。
「ケイトから連絡が入りました」
彼は、冷静に対処しようとしているようだが、どこか焦りのある表情で、私に視線を寄こしてきた。
なんだろう、嫌な胸騒ぎがする。
不安を押し隠す為に胸元の布をぎゅっと掴む。
「幸田圭一の行方が判らないとの事です」
一瞬、彼が何を言ったのか判らなかったが、何度か頭の中で言葉を反芻してやっと、意味を飲み込めた。
圭一が行方不明。
本能に従い咄嗟に部屋を飛び出そうとした私の腕を兄が掴み、強い力で引っ張られる。
兄の腕が、私の背後から首元に周り、そのまま兄の胸元へと引き寄せられ拘束された。
「兄貴! 放して! 圭一を探しに行かなきゃ!!」
動く片腕で目下にある腕を振りほどこうとするが、全くといっていいほどピクリともしない。
急く気持ちが胸の奥で燻り、目頭が熱を持つ。
素性の判らない侵入者がうろつく場で、圭一が行方不明。
一人で何処かにいるならまだしも、もし、侵入者に捕まっているのだとすれば……何をされるか判らない。
最悪な出来事が、脳裏を掠めていき、背筋に不快なモノが走る。
「幸田は部屋に居なかったんだな?」
「はい」
「ケイトにはそのまま他の奴等をここに連れてくるように指示を出せ。幸田の部屋の前にある監視映像の巻き戻しは?」
「今やっています」
先ほどの男性とは違う従業員が、コンソールデスクの前にあるチェアに座ったまま声を上げた。
「現時刻から三十七分前に部屋を出たようです」
前方のスクリーンの一部に、圭一の姿を捉えた映像が映し出されている。
キーボードを叩く音が鳴る中、圭一の姿を追うように映像が切り替わっていく。
見覚えのある廊下の映像と、ふと思い出した昨夜の出来事。
圭一が歩いている方向からして――
「休憩室」
そうだ、眠れない様子の圭一と休憩室で会った。
もしかしたら、今夜も眠れず休憩室に行ったのではないだろうか。
「休憩室の映像出せ」
兄の指示により、現在の休憩室の映像が映し出された。
「居ないか」
「時間を巻き戻してみます」
少しのノイズの線と共にコマ送りのように巻き戻されていく映像。
「止めろ」
兄は、何かに気付いた様子で静止画像を睨むように見上げ、更なる指示を飛ばす。
「入り口部分を拡大しろ」
了承の返事と素早くキーボードを叩く音が鳴るのは同時だった。
そして、そこに現れたのは……最も見たくない事を現実にした画像だった。
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