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状況変化



現在、俺達が居る部屋は、二十畳程のコンクリートむき出しの部屋だ。

小さめの丸いテーブルに椅子が二脚のセットが六つ。

リクライニングが出来る一人掛けのソファーが四つ。

入り口近くの壁際に、自動販売機のような物が二台。

“ような物”というのは、お金を入れなくてもボタン一つで好きな飲み物が飲めるからだ。

それから、半畳も無い小さな嵌め殺し窓が三つ。

この部屋の隣は、先程まで凛達がトレーニングをしていた部屋。

ようするにここは、休憩室のような場所であり、俺達は、よくここでのんびりと過ごしている。

「凛く−ん、手合わせしてよー」

秋月は、斉藤に首根っこを掴まれた状態のまま、不貞腐れたように凛を見下ろした。

「……まだ、やるんですか?」

凛は、一応、微笑んではいるが、その声にいつもの元気は無い。

それもそのはず、凛は、秋月と斉藤がこのシェルターに来て以来、朝から晩まで、みっちりと秋月のトレーニングに付き合わされているのだ。

流石の凛も、疲労を感じているようだ。

秋月は、高校卒業後の進路を、凛と同じ会社、【尾崎総合警備保障会社】に就職するつもりらしい。

凛達の仕事を間近で見て、ビビっときたのだそうだ。

「当然!だってさ、凛君、夏休みが終わったら、そうそう会えなくなるだろ?だ・か・ら、今の内に俺が満足するまで付き合って」

秋月の語尾にハートマークでも付いてそうな物言いに、俺の心は、苦いモノに満たされる。

だが、同時に締め付けられるような感覚も俺に襲い掛かってきた。

――夏休みが終われば、凛と会えなくなる。

元々、凛は俺のボディーガードとして、桜山学園に転入してきた。

そしてもう、俺にボディーガードは必要無い。

何故なら、狙われる理由となった問題は解決し、守られる理由が無くなってしまったからだ。

凛は、学生の俺とは違い立派な社会人で……当然の事ながら、次の仕事がある。

また、誰かのボディーガードをするのだろう。

俺を守ってくれたように、凛は全力でクライアントを守るんだろうな。

いつまでも、俺の傍に居てもらえるわけも無く――今までのように、毎日会う事は出来ない。

仕方のない事だという事は判っている。

判ってはいるが、離れたくない。

毎日顔を合わせて、話をして、凛の笑顔を傍で見たい。

と、いうのが、本音であって……

「圭一?どうかした?」

心配そうな凛の顔が、俺の顔を覗きこむ。

きっと、今の俺の顔は沈んだ表情をしているのだろう。

俺は慌てて、笑顔を作り「なんでもないよ」と凛に微笑みかけた――が、凛は、渋い顔で、じっと俺の目を見る。

大きな凛の瞳に俺が映り、その俺は見るからに嘘くさい笑顔を顔に貼り付けていた。

これは、凛が心配するのも無理は無い。

自然と、苦い笑いが浮かぶ。

凛が何かを言おうと口を開き掛けるのと同時に、斉藤が口を開いた。

「忘れる所だった。朔さんから、凛に言付を頼まれていた」

「兄貴から?」

「あぁ、『話があるからミーティングルームに来い』と。次の仕事の話のようだが……」

「……そうですか」

凛は、ちらりと俺を見上げたが、直ぐに斉藤に向き直った。

「判りました。修二先輩有難うございます。じゃ、そういう事なので、秋月先輩、手合わせは、また後ほどに」

「えぇぇー」

「……圭一も、また後でね」

「うん」

俺の返事に、ほんの少し頬を緩め小さく頷くと、凛は、ぶーぶー文句をたれる秋月から逃げるように室内を出て行った。





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