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「……き、禁止って。くくっ、圭一、サイコー」

秋月は肩を震わし、二人が出て行ったドアに向かって破顔する。

彼の計算も打算もない素直さは、自分には無いものだ。

あんな風に体当たりで、気持ちを伝える事は、今の自分には到底真似できない。

尊敬の念を抱くと共に強力なライバルだと、秋月は心の中でごちた。

「捻くれまくったどこかの誰かさんにも、彼の真っ直ぐな所を見習って欲しいものですね」

肩を竦ませた美咲が、香山を横目で見下ろした。

香山は、美咲の胡乱な眼差しを肌で感じながら、口の端を上げる。

「……それって、俺の事?」

「そう思われるのでしたら、そうなのではないですか?」

「ふうん。玲は、俺が尾崎君をイジめた事を怒ってるってワケだ。ずいぶんと、尾崎君を気に入っているようだねえ」

「気に入った相手を虐める小学生のような若には、関係のない事です」

「玲はカワイゲがないねえ。何処に落としてきたんだか」

「若の前で可愛げなんて毛先一ミリも必要ないでしょう」

剣呑な雰囲気が辺りを漂い始めたのを、秋月が両方の手を打って遮った。

「あー、はいはい。そこまでー」

放って置くと、一時間は不毛な言い合いが続くからだ。

穏やかそうな外見の香山と、冷静沈着なイメージの美咲だが、意外と熱しやすい特色を持っている。

“類は友を呼ぶ”ではないが、性質は似ているようだ。

「さて、と、スイ君」

ヘラヘラと笑み崩れた秋月に呼ばれた彗蓮は、未だ青白い顔色をしている。

「……なんだ」

「君さ、好きな人とかいないの?」

心底驚いた、というように瞳を大きく見開く彗蓮の様子を見て、秋月は、したり顔で頷いた。

「その様子じゃ、いるみたいだね」

彗蓮の隣に立つ崙は、心なし青ざめた顔で、彗蓮を凝視している。

どうやら、彗蓮に好きな人がいる事を知らなかったようだな、と、秋月は心中で苦笑した。

「圭一も言っていたけどさ、結婚するなら好きな人とする方が、やっぱり一番幸せだと思わないか?」

「……判らない。劉 彗蓮は男だから、考えた事もなかった」

自分の一生は、男として終える予定だ。

だからこそ、一般的な結婚というものは、絶対に自分には当てはまらない。

考えるだけ無駄であり、幸せな想像は――悲しくなるだけだ。

「だけど、ウチで結婚式を挙げたカップルは、皆……とても幸せそうだった」

彼らと違い、自分は“他人の一生を巻き込む”という罪を背負うのだ。

きっと、自分が結婚する時は、あんな風に心からの笑顔ではないだろう。

「君も随分とガチガチに凝り固まっているんだねえ」

口元を歪め笑う香山。

彗蓮は身体を震わし、香山の視線から逃れるように崙の背後へと隠れた。

まるで、猛獣に睨まれたウサギだ。

「香山、彼女が怯えている」

眉間に皺を寄せた斉藤が、香山を見据える。

斉藤の真髄である“漢道”から逸脱した香山を不快に思っているのだ。

香山は肩を竦めて、彗蓮達に背を向けた。

ほっと胸を撫で下ろした彗蓮に美咲が声を掛ける。

「部外者が立ち入る話でないでしょうが、少しだけ。貴女は、どう足掻いても女性だ。それは変わりない事実で、真実です。貴女の背負っているモノは、本当にそんなに重いモノですか?」

温かいとは、お世辞にもいえない冷めた目で話す美咲の背中を秋月が軽く叩く。

苦笑いを浮かべ、後頭部をかきながら彗蓮を見やった。

「何が正しくて、何が間違っているのか、人によってその答えは違うし、その時になってみないと判らないよね。そんな不確かな答えの為に、自分を犠牲にする事無いんじゃないかな。俺はさ、スイ君も凛君も、もう少し自分の幸せを考えてもいいと思うんだよね」





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