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一瞬にして耳が痛く感じるほどの静寂が場を支配し、皆の視線がその原因となった人物に注がれる。

「テメー等、さっきから、全然話が進まねーじゃないか!! おい、そこの赤髪おっ立ててるヤツ!」

ビシッと、効果音でも付きそうな程の勢いで、秋月に指を差したのは、スイだ。

「エッ、俺?」

「お前さ、凛に用事があったから、ここまで来たんだろ? さっさと、用件言えや。男のクセにだらだら、だらだらと、くっだらねー事で喚きやがって! てめぇ、それでも○玉(自主規制)付いてんのか!? それともガラクタか!? ああ!?」

一時停止したような画像のように、皆の動きが固まり、先程以上の静寂が室内に流れた。

スイの“キレると口が悪くなる癖”は、未だ健在のようだ。

以前、護衛の任に付いていていた時も、度々こういった出来事があった。

初めて目の当たりにした時は、幻聴だろうかと自分の耳を疑ったものだ。

見目麗しい端正な人の口から出てくる、綺麗とはお世辞にも言えない暴言に酷く衝撃を受けた。

それは全米でオリコンナンバーワンと、絶賛されていたアーティストの歌声が、壮絶な音痴だったぐらいの衝撃だったと思う。

だが、やはり幻聴だと思っていたモノは紛れも無い現実で、自分でも口にした事の無いような暴言のオンパレードは、スイの形良い唇から吐き出されていた。

昨日もそれで、香山先輩を敵に回していたので、まさに『口は禍いのもと』を地でいっているような気がするが……当の本人は、鼻息荒く秋月先輩に眼を飛ばしている。

十数秒の時を経て、静寂を破ったのは、へらりと笑み崩れた秋月先輩だった。

「……君さぁ、女の子なんだから、きゃん玉とか、大声で言っちゃ駄目だよ。折角の美人が台無しだよー?」

ドクッと一際大きな音を立てて、心臓が停止したような気がした。

圭一や、先輩達の驚いた声と、表情がスイに向けられる前に、ロンさんが立ちはだかるようにスイを背中に匿う。

ああ、ロンさんのこの行為は、秋月先輩の言った言葉を肯定しているのと同じだ。

その証拠に、ほんの一瞬、確信したとでもいうように、秋月先輩の目が僅かに細められ、薄く口元に笑みを浮かべたのが見えた。

「な、何を言ってるんだ。俺が女だと? お前の目はガラス玉か?」

反論しようとするスイの声は、上擦り、震えて聞こえる。

誰が聞いても、狼狽しているようにしか聞こえないだろう。

「お前は、脳細胞だけじゃなく、視神経にまで異常が……」

「スイ」

私が名前を呼ぶと、怯えた表情のスイがこちらを向いた。

スイにとって、今までの苦労が全て水の泡になってしまうと言っても過言ではない、重大な秘密がいとも簡単に暴かれたのだ。

秘密は、スイの欠点でもある。

神経をすり減らしながら慎重にこの秘密を守ってきたというのに――

私は苦笑し、ゆるく頭を左右に振る。

――だけどもう、秋月先輩を誤魔化す事は不可能だ。

彼は、既に確信してしまっているのだから。

だったら、次にとる行動は――

「秋月先輩、質問です」

「なーに、凛君」

「流す事は出来ませんか?」

「いつもなら流してあげるんだけど、今回は出来ないなー」

いつも、へらへらと笑う秋月先輩は、何も考えていなさそうに見えるが、それは表面上だけだ。

彼の意外と鋭い洞察力や、思考の深さは計り知れないモノがある。

「じゃあ、皆さんに提案です」

キョトンとした秋月先輩の目の前まで足を進め、少し茶色がかった瞳を見上げてから、圭一、香山先輩、美咲先輩、斉藤先輩、そしてロンさんと、スイに視線を向け、再び秋月先輩へと戻す。

気は進まないが――

「共犯者になって下さい」

――無かった事に出来ないのなら、引きずり込むまでだ。





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あきゅろす。
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