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私の意思とは関係なく、心と身体が、スイの動き一つ一つに身構えている。

スイから“アレ”の申し出がでれば、それは私にとって、この環境と決別という最終通告となる。

「……凛、俺と……」

あぁ、やっぱり言われてしまうのだろうか。

これでスイの夢が叶うのなら、いいじゃないかと思う私と、言わないで欲しいと切に願う、もう一人の私が居る。

心が締め付けられるような感覚の中、固唾を飲んでスイの次の言を待つ。

「俺と、け……えっ!?」

突然、何かが叩きつけられたような、けたたましい音と風圧を感じた瞬間「凛君、居るー?」と、間延びした声が、室内に響いた。

この声は――

「……秋月先輩」

緊張していた身体から力が抜けた状態で、振り返ると、案の定、秋月先輩の姿があった。

「おっ、凛君見−っけ! おーい、凛君発見したぞー!!」

秋月先輩が、自分の背後へと声を張り上げれば、いくつかの足音が此方に近付いてくる。

「秋月会長! 一人で暴走しないで下さい!! 廊下は走っちゃ駄目だって、小学生の時に習いませんでしたか!?」

室内に姿を現し、開口早々、秋月先輩への説教を始めたのは圭一だ。

「圭一、規則というのはな、破る為にあるのだよ」

「どこぞのオッサンのような言い訳は止めてください。今度から秋月会長の事をオッサン会長って呼びますよ?」

「オッサンはやめてー」と、秋月先輩が喚いている後方から、香山先輩と美咲先輩、斉藤先輩も姿を現した。

圭一と秋月先輩には、我関せずといった風に、華麗にスルーしている。

「ああ、尾崎君ここに居たんですね。探しましたよー」

先程まで唖然とした様子で座っていたスイが、香山先輩の姿を見た途端、勢いよく立ち上がり、ロンさんの背後へと隠れるようにしがみ付いた。

随分と恐怖心が植え付けられているようだ。

「仕事中だったのだろう? 騒がしくしてすまないね」

苦笑する美咲先輩と「……無理だった」と、ポツリと呟く斉藤先輩。
一見、斉藤先輩は無表情に見えたが……眉根が僅かに中心へと寄っているのが伺えた。

先程の呟きの内容と総合して、多分、申し訳ないと、思っているのだろう。

「秋月先輩の暴走を止めるのは難しい事ですよ。恐らく、私が斉藤先輩の立場だとしても、止められなかったと思います。だから、気になさらないで下さい」

「そうそう、気にしちゃ駄目だよー!」

間髪入れずに、秋月先輩が割り込んできた。

「元凶は黙ってて下さい。このオッサン会長」

「確かにオッサン会長が言う事じゃないですねえ」

「そうですよ、オッサン会長の所為で、尾崎君に迷惑かけてしまったんですから、少しは自重なさってはどうです?」

「な、なんだか、その呼び名、定着してない?」

「……オッサン会長」

「修二まで!?」

斉藤先輩にまで“オッサン会長”と、言われたのが堪えたのか、オッサン……じゃなくて、秋月先輩は床にしゃがみ込み『の』の字を書いてイジケモードに突入しだした。

他のメンバーは、そんな秋月先輩を鬱陶しそうな眼つきで見下ろしている。

自業自得というか、なんというか――皆、フォローする気はないんだね。

「えっと、オッサ……あー、秋月先輩、私に何か用事があったんじゃないんですか?」

「凛君、今、オッサンって、言おうとしたでしょ」

じとりと恨めしそうに見上げられる。

「そ、空耳ですよ。幻聴です」

あわあわと、両手を左右に振っていると、いつの間にか圭一が隣に立ち、私の肩をポムポムと叩いた。

「いいんだよ、凛。そんな奴、オッサンで充分だ。いっそ、オッサンなんて言ったら、本当のオッサンにも失礼なぐらいだ」

フンと、鼻で笑う圭一に秋月先輩が「ひ、酷いよ、酷いよ、圭一のバカー!!」と、嘆くふりをし出している。

まだ、もうしばらくは、秋月先輩の悪ノリが続きそうだ。

自然と込み上げてくる溜息が、口から漏れ出だした時「だあっー!!」と、背後から怒声に近い雄叫びが発せられた。





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