◆死灰屠り(完/連)
第四話
◇◆◇◇
翌朝、俺を含め左京と依頼者である山西氏との三人で、杉田氏のマンションへと向かった。
杉田氏が入院している病院は、面会時間が午後からだったので、先に杉田氏のマンションを視察する事にしたのである。
因みに、春日は、いつも通り登校。
今日は半ドンらしく午後から合流する予定となっている。
共に仕事をしていると忘れがちだが、彼女は学生だ。
しかも高校生。
一応、社員だが特例採用の彼女は学業が優先なのだそうだ。
基本、真上探偵社の雇用基準は十八歳以上である。
それは、心霊班だとしても例外ではない。
なのにも関わらず、特例として採用されたのには、やはり彼女の実力を買われたという事なのだろう。
そして、右京は俺達以外の心霊捜査班達との打ち合わせの為、春日同様午後から合流する事になっている。
◇◇
「へぇ、結構いい所に住んでいるのねぇ」
左京は目前に立ち塞がるマンションを見上げ感嘆のセリフを上げた。
「確か最近のはずですよ。引っ越して……三ヶ月も経ってなかったと思います」
山西も左京と共にマンションを見上げる。
マンションは八階建てで、外壁は白、黒、灰色系のモノトーンのパネルが埋め込まれ、エントランスにはちょっとしたカフェのような、これまた外観に合わせモノトーンのテーブルと椅子。
サイドには観葉植物や、花がさりげなく飾られ、壁には抽象的な絵が飾られている。
おそらく此処は、このマンションに住む奥様方の井戸端会議場なのだろう。
「杉田さんは、お一人で此処に住んでおられるのですか?」
俺はふとした疑問を山西さんに質問してみる。
「――の、はずですが……杉田は余りプライベートな事を話さないヤツだったんで」
山西は首に手をやりながら申し訳なさそうに笑った。
「まぁまぁ、とりあえず、中に入りましょう」
いつの間にか、左京の隣にはマンションの管理人だろうか、初老の男性が立っていた。
小柄で、目元には深い笑い皺が刻まれ、いかにも温和そうな男性だ。
男はニコニコと笑いながら、遠藤と名乗り、杉田氏の部屋まで案内してくれた。
「こちらですよ」
遠藤は部屋の鍵であるカードを機械に通しドアを開けた。
部屋は三LDKの広々とした部屋で、必要最低限の物しか置いてない。
そのせいか閑散とした印象を受ける。
「特にこれといって変わった所はないわねぇ。……要は何か感じる?」
「ちょっと待って下さい」
俺は気を巡らし周囲を探る。
玄関、リビング、キッチン、風呂場、トイレ、空き部屋、寝室、仕事部屋……
その中でも、微かに寝室の気の流れが他の部屋と違うのに気付いた。
俺は寝室に入ると、部屋をザッと見渡す。
備え付けのクローゼットに黒の皮貼りのダブルサイズのベッド。
ベッドの脇にはスチール制のサイドボード。
視認する分には特に変わった所はない。
――だが
「……ここから微かに何か感じるのですが」
――感じるが、元がない。
恐らくこれは、残り香みたいな、モノなのかもしれない。
「……何かの残留思念かと」
「残留思念?」
山西はポカンとした表情で俺に問い掛けてきた。
「簡単に言えば、ここに何かが居たという証拠みたいなものです」
――ナニかが去った後でもこうして気配が残っているという事は……
杉田さんは、恐らく……
「……嫌な感じね」
左京は、腕を組み、軽く眉間に皺を寄せると、ポツリと呟いた。
◇◇◇
ウィィーンというモーター音の歓迎を受け、建物の中に歩を進めると薬品特有の匂いが、鼻腔をくすぐる。
周囲を見渡し、待ち合わせをしている連中の姿を捜す。
診察時間が終了しているのだろう、人はまばらだ。
「――まだ到着していないみたいだな」
右京は腕時計を確認する。
十四時を既に周り、面会可能な時間だ。
「そうみたいね。先に杉田さんに会いに行ってみる?」
春日は隣にいる右京を見上げた。
右京は、少し考えるように腕を組み、一拍おくと「そうだな」と頷く。
「杉田氏の所で待っていたら、そのうち奴らも来るだろう」
受付で、杉田誠の病室場所を聞く。
杉田誠の病室は三階の三○八。
春日達はエレベーターで三階まで行き、エレベーター横の壁に掛かっている表示板を確認し、病室に向かう。
表示板によれば、杉田氏の病室は個室のようだった。
杉田氏の病室に向かう途中、黒のスエード素材のハンチング帽子を目深にかぶり、サングラスをかけ、グレーのパンツスーツ姿の女性とすれ違った。
女性は春日達に気付くと、顔を背けるようにしながら足速に去っていく。
「――この先って」
春日は進行方向を向いたままピタリと立ち止まり呟く。
その呟きに右京が答えた。
「――杉田氏の病室のみだな」
「追い掛けるわよ!」
そう言うと春日はクルリと身体を反転させ、駆け出した。
◇◇◆◇
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