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◆死灰屠り(完/連)
第一話
◇◆◇


街の中心部から、少し離れた場所にある真上探偵事務所の別館。

別館は、心霊班の本部が置かれている建物だ。

街中にある本館の五階建のビルとは違い、別館は二階建ての洋風の屋敷で、周囲には、緑を濃くした木々が別館を取り囲むように群がっており、敷地外から見れば、ただの林にしか見えない。

初めて此処に訪れた時、案内人がいなければ、俺は絶対に道に迷っていたと思う。

「小泉君、わざわざ送ってもらって、悪いわね」

俺は、小泉 要(こいずみ かなめ)、二十三歳、真上探偵事務所、心霊班本部に所属している。

先程、俺に声を掛けてきた女性は、羽柴 楓(はしば かえで)、真上探偵事務所の情報班だ。

黒のショートヘアーに、中性的で奇麗な顔立ち。

白いブラウスにダークグレーのサマースーツを着こなす、スラリとした細身の体型。

歳は、二十代後半といったところだろうか。

「いえ、ここから駅までは遠いですからね、お気になさらず」

俺は、車の助手席のドアを開け、羽柴に乗るように促す。

羽柴が、車に乗り込んだのを見届けてから、ゆっくりとドアを閉めると、運転席へと回り、車のエンジンを掛けた。

羽柴を駅まで送る事になった経緯は、一時間前に遡る。

心霊班、本部には、俺を合わせて四人の従業員が居る。

一人は全支部の心霊班の統括でもある若宮 右京(わかみや うきょう)。

統括の肩書きをもっているだけあって、真面目で、機転が早く、何より強い能力を持っている。

もう一人は、右京の双子の片割れでもある若宮 左京(わかみや さきょう)。

左京は、女性のような話し方をするという、少し変わった癖を持っているが、右京同様、強い能力の持ち主だ。

最後の一人は、春日 彩季(かすが さえり)。

現役高校生にも関わらず、特例として認められ仕事をしている。

特例となった理由として、一番大きな要因は、蒼焔(そうえん)の存在なのだろう。

蒼焔は、実体を持たない、いわば、術者が使役する式神に似た存在だ。

青白い光に真紅の目をもっており、その容姿は犬のような姿をしているが、刀にも変ずる事ができる。

更に、蒼焔に似た紅焔(こうえん)と呼ばれるモノもいるのだが……詳細は、今の俺には判らない。

蒼焔と紅焔を従える春日は、恐らく、この四人の中で一番強いと思われる能力を持っている。


そんな三人は、今朝からそれぞれの用事で別館に居なかったのだが、十時頃になると、右京が一人戻ってきた。

「あ、右京さん、お帰りなさい」

動かしていたペンを止め、デスクから立ち上がろうとした俺を右京は、軽く手を挙げ制した。

「そのままで構わない。留守を任せてすまなかったな。何か変わったことはあったか?」

「いえ、何もありませんよ」

「そうか。悪いが、暫らく応接室に籠もる」

「客人ですか?」

「あぁ、情報班の羽柴だ。茶は要らないから、そのまま仕事を続けてくれ」

右京はそう言うと、さっさと事務室を後にした。

隣の部屋にある応接室のドアを開け閉めする音がしたので、どうやら羽柴と共に、応接室に入っていったのだろう。

今のところ、依頼関連では、情報班が絡む仕事は無かったはずだが……もしかして、右京と羽柴は恋人関係で、最近忙しかったので、逢引するために?

――いや、堅物でもある右京に限ってそれはないか。

色々と邪推しながらも、書類への書き込みを続けること、一時間後。

事務室に再び右京が姿を見せた。

「要、すまないが、羽柴を駅まで送ってやってくれないか?」

「ええ、構いませんよ」

上司に逆らう度胸は俺には無い。

二つ返事で引き受けた俺は、車のキーを手に取り廊下に出た。

俺の姿を見た羽柴は「久しぶりね」と微笑む。

「お久しぶりです」

所属している班は違うが、羽柴の方が先輩に当たるので、俺は敬意を示し軽く頭を下げる。

実は以前の仕事で、羽柴に手伝ってもらった事があったので、互いに顔は知っていたのだ。

その仕事の前にも、凄腕の情報班が居ると、名前だけは俺の耳にも届いていた。

「要、後は頼んだぞ。それから、羽柴」

「はい」

「くれぐれも、無理はするな」

「判っています」

右京は、微かに頬を緩ませながら頷くと、俺が先程、仕事をしていた事務室へと入っていった。

先程の二人会話からは、どういった内容の話なのか全く判らず、気になるのだが……詮索するのも悪い気がする。

仕事の話ならまだしも、プライベートな事だったら、聞いた俺も困るかもしれない。

とりあえず俺は、与えられた指示を実行する為に、玄関先へ足を進めた。


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