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◆死灰屠り(完/連)
第十一話
◆◆



煌々と光り輝いていた月が、西の端っこに移動し、白っぽい光を放っていた。

穏やかな光に照らし出され、静まり返った村の農道に車のエンジン音とタイヤが地面を擦り走る音が響く。

結城の病院を後にした後、数分も経たない内に隣に座っていた春日が、俺の肩に頭を預けいつの間にか眠っていた。

既に深夜三時をまわっている。

俺を含め、右京や左京、四郎も眠いのだろう。

右京が運転する車内には、春日の規則的な寝息のメロディが流れているだけだ。

俺は右肩に春日の温もりを感じ、流れ行く風景に目をやる。

本当なら、春日の優美な寝顔を拝みたいところなのだが……

運転席の右京と、助手席の左京は、春日が幼い頃から見守ってきた。

そして、後部座席に俺と春日と共に座っている四郎は、春日を娘同様可愛がってきた。

この状況で、春日の寝顔をじっくりと堪能などという行為に及ぶには、俺には度胸が足りなさ過ぎる。

六つの監視の目が光る中、俺に許された事は、こうやって、温もりを堪能する事だけなのだ。

俺は、周囲に気付かれないように小さく溜め息を吐き、景色に意識を向けた。

民家や畑が、淡く照らしだされる中、影は更に色を増し、濃い闇と化している。

そして、見覚えのある建造物が目に映った。

辰巳 キヨ子が亡くなっていた、神社の鳥居だ。

俺が動く景色の中、ぼんやりとその神社に目をやった時だった。

木々の下の色濃い暗闇の中を更に漆黒の闇が動いている。

「右京さん、止めて下さい!」

突然上げた俺の声に驚いたのか、車は急停止した。

少々驚いた様子の左京が、助手席から後部座席へ顔を覗かせる。

「か、要君、どうしたの?トイレ?」

「違いますよ。辰巳さんが亡くなっていた神社付近に、誰か居るみたいなんです」

「こんな時間にか?」

怪訝そうな声を上げた右京が、車のデジタル時計を見た。

三時二十七分と、表記された時計に視線が集まる。

「警察……という訳でもなさそうやな」

四郎の言葉に右京が頷く。

「捜査なら、明かりが見える筈ですが……それらしき光は見えませんしね。行ってみましょう」


車を降りると、スーツを着た俺でも寒いと感じるぐらいの冷たい風が吹いていた。

「サエ、良かったらどうぞ」

俺の隣で、寒そうに腕を組む春日に上着を差し出す。

半袖のTシャツに薄手の七部袖のパーカー姿、更には寝起きであれば、体感温度は更に低いだろう。

春日は、俺の上着を受け取り「ありがとう」と、小さく笑う。

月光に照らし出された微笑は、神秘的な美しさを感じさせた。

儚げで、どこか憂いを帯びながらも、その存在感は大きい。

月の女神がいるとしたら、おそらく春日のような美しい人なのだろう。


「あら、境内に誰か居るみたいね」

先頭を歩いていた左京が、声を低めた。

月の薄明かりの中、境内の真ん中で、俯いた人影。

近付けば、それは少女だという事が判った。

ショートカットの小柄な少女。

俯き、向けるその視線は、辰巳 キヨ子が倒れていた場所だった。

「ありゃー、三芳の娘じゃねーか」

四郎の声が聞こえたのか、身体をビクつかせ、少女がこちらを向いた。

その目は、酷く脅えた色をしている。

「こんな時間にどうしたの?」

春日が、優しく少女に話し掛けた。

少女は、俯きながらも、消え入りそうな声で答える。

「辰巳のおばぁちゃんが、亡くなったって聞いて……それで」

「あぁ、そういやぁ、三芳は辰巳と親戚関係やったな」

少女は、四郎の言葉に小さく頷く。

「加奈(かな)!!」

威圧的な、聞き覚えのある声が、俺達の背後から聞こえてきた。



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