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◆死灰屠り(完/連)
第十話
◆◆


白を基調とした、シンプルな壁紙が部屋を覆い、部屋の中央に一般的な事務机が三つ。

入り口正面にある窓には、グレーのブラインドが下ろされ、ファイルや書籍が隙間無く入れられた本棚が、左右の壁に並んでいる。

ここは、結城が経営している病院兼、自宅。

病院と言えども、都会にあるような大きな病院ではなく、四、五人程しか入院できない小さな個人病院だ。

結城は監察医としてだけではなく、この村の医者でもあるのだという。

ギシリと、結城の座る椅子が悲鳴を上げた。

「やはり、死因は先の三人と同じ、噛み傷のようなモノによる失血死。咽喉元の傷が致命傷だな。獣が獲物を狩る時と同じだ。急所を噛み千切っている」

結城の疲労を含んだ溜息が、殺風景な室内に響く。

書類や、書籍が乱雑に積み上げられた事務机の上で、結城が持っていた年季を感じるボールペンが転がった。

境内で死亡していた老女は、辰巳 キヨ子(たつみ きよこ)

年齢は七十二歳。

昼間に出会った、辰巳 裕子の祖母なのだそうだ。

「つまりは、同じ犯人の可能性が高いと言う訳やな」

結城は頷き、座っていた椅子から立ち上がると、四郎に向き直った。

「それからな、キヨさんの手に紙切れが握られていたんだが……」

「紙切れ?」

「あぁ。品物は、警察が持っていってしまったんだがな……」

そう言うと、結城は先ほど机に転がしたペンを再び握り、近くにあった紙の上にペンを走らせる。

「こんな感じの模様だったかな」

結城が描いた紙には、凡字のような文字が大小あり、縦に五行並んでいた。

「紙の上部は千切られたような跡があったから、恐らくはこれは一部だろう。……見覚えはあるか?」

「何かの札っぽいな……せやけど、俺は呪術関係、苦手やったからなぁ」

四郎は苦笑いを浮かべ、左京に視線を送った。

「呪術は確か、左京の得意分野やったな?」

「ええ。でも、残念ながら私にも判らないわ。全体を見られたら何か判るのかもしれないけど……」

俺の隣で、軽く腕を組み、紙を見つめていた右京は視線を結城に移し口を開いた。

「現物は見られないのですか?」

「そうだなぁ……鑑識の捜査が終われば、見られると思うが」

結城は「少し待ってくれ」と、机の端に追いやられていた電話機に手を伸ばす。

そんな結城を尻目に、春日は結城が書いた紙を手に取った。

俺も、春日の背後から、その紙を覗き見る。

「この紙切れ、何の紙なんでしょうね。千切られていたっていうのも気になりますし……」

今回の事件の鍵なのだろうか。

もし、そうなのだとすれば、亡くなった辰巳 キヨ子は、何かを知ってしまったが故、殺されたのだろうか。

「この文字、凡字っぽいから札の可能性は高いけど……。札と言っても色々あるから、まだなんとも言えないわね」

「確かに」

札には、俺達が使用する、術式のモノから、家内安全などのお守り。

又は、成就祈願、中には子供の夜鳴きを止める札などもあったりと、バリエーションは幅広い。

「四郎、明日の朝になら、どうやら見られるそうだ。‘よかったら直接お前さんの家に持っていくが’だとよ」

結城は受話器を首に掛け、四郎に振り返った。

四郎は「そうか」と、返事をすると、右京に視線を向ける。

右京が一つ頷くと、四郎も了承したように軽く頷く。

「じゃぁ、結城、‘お言葉に甘える’と伝えてくれ」

結城は四郎に片腕を上げ、再度受話器に耳を当てた。




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