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◆死灰屠り(完/連)
第七話
◆◆




土や、水、草、木の匂いが入り混じった風を受けながら、あぜ道を歩く。

山上高等学校から、村の中心地に向うように南に歩いて十分足らずの場所が、第二の事件現場だった。

周囲には青々とした田んぼが広がり、民家が転々と遠くに見える。

「この場所で野村君は、亡くなっていたそうです」

真理は、先ほど流した涙の所為で充血した目で、そこに置かれている花束と線香を眺めた。

俺達は、誰からとも無く、その場に屈み、鎮魂の意を込め、手を合わせる。

そんな俺達の背後で真理はゆっくりと優しい声色で言葉を紡ぎ始めた。

「野村君は、クラスでも人気者で、明るく、優しい子でした。勉強もスポーツも良く出来て、いつもクラスの皆を引っ張っていくような、そんな子です。クラスに限らず、いろんな学年の子とも仲が良くて、野村君に想いを寄せている女生徒も多かったんですよ……」

真理は、薄い雲が流れる空を見上げ、懐かしむように目を細める。

「もう、薫も野村君も……何処にもいないのですよね」

山間から流れる初夏の風が、五人の間をユルリと通りぬけ、後方の草木を揺らして行く。

真理の言葉をぼんやりと聞きながら、手を合わせている俺の横で、右京が立ち上がり、真理に向き合った。

「美作さんや、野村君の周りで何か、変わった出来事はありませんでしたか?」

「変わった……ことですか」

右京の問いかけに、真理は考え込むようにして口元に手を持っていく。

「もしくは、村全体、北川さんの周囲でも構いません。噂話とかありませんでしたか?」

「……いえ……特に、何も」

真理は軽く首を横に振り、右京に視線を戻すと「あら?」と、小さく呟いた。

「こんにちは、北川先生」

どこか威圧的な女性の声に俺達も振り返る。

年の頃は春日と同じくらいだろうか、黄色のノースリブのTシャツにミニのジーンズスカート、髪はセミロングで、緩めのカール。

声同様、目つきもキツイが、なかなかの美人だ。

「辰己(たつみ)さん、こんにちは。こんな所でどうしたの?」

「えぇ、明敏君が安らかに寝むれるように、お参りに来たんですよ。ところで、この人達は?」

辰巳と呼ばれた女性は、品定めでもするような視線で、俺達を見てきた。

「彼らは、四郎さんのお友達よ」

真理がそう言うと「あぁ」と、頷く。

「ま、どうでもいいですけど、あまりこの辺りを無闇にチョロチョロしないで下さいね。明敏君が嫌がっていますから」

そう言うと、辰巳と呼ばれた女性は、さっさっと歩いて行ってしまった。

「……今、彼女、妙な事言いませんでした?」

俺は、過ぎ去っていく彼女の背を呆然と見ながら、春日達に問う。

春日は、怪訝な視線を彼女に向けたまま、俺の言葉に頷いた。

「明敏君が嫌がっているからって、言ったけど、……明敏君って、ここで亡くなった生徒ですよね?」

視線を真理に移し、伺うように見てくる春日に真理は俯く。

「ええ、そうです。あの、あの子は……その、ちょっと変わっていて……」

辰巳と呼ばれた女性は、山上高等学校に通う二年生で、名前を辰巳 裕子(たつみ ゆうこ)と言うそうだ。

辰巳も真理の受け持ちの生徒で、この村の地主の娘なのだと言う。

「オカルトって、言うのでしょうか、彼女そう言うのにハマっているのか、亡くなった霊が見えるとかって言っているのですけど……。普段は普通なのですが、時々、あんな感じの言動をするんです」

成る程、思春期の子供達が、オカルトや心霊にハマる事は良くある事だ。

揺れ動きやすい時期だからこそ、不可思議な事に興味を持つ。

「見た感じ、彼女からはそういった気は見られないな」

右京は軽く腕を組み、ため息混じりに呟く。

「えぇ。いたって普通の子だわ。注目を浴びたい……自己顕示欲の強い子なんでしょうね」

右京同様、軽くため息を吐き、肩を竦めた。






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