◆死灰屠り(完/連)
第六話
◆◆
腰まで伸びた長い黒髪を後頭部で結び、膝丈のグレーのスカートに白のブラウス、その上に黒のカーデガンを羽織った女性は、俺達を警戒するように口を開いた。
「あ、あの私、山瀬の四郎さんに言われて来たのですが、貴方達が四郎さんのお友達……ですか?」
女性の少し硬い声が教室に響く。
「あぁ、もしかして、北川 真理(きたがわ まり)さんですか?」
右京が、何か思い出したかの様に彼女に問い掛けた。
「え、えぇ。じゃぁ、あなた方が四郎さんの?」
真理の言葉に右京は頷き、簡単に俺達の自己紹介をする。
真理は、それでもどこか驚いたように俺達に視線を向け「四郎さんのお友達と聞いていたから、てっきりもっと年配の人だと思っていたんです」と、困ったように微笑んだ。
◆◆
真理は、美作 薫の同僚で、第一発見者なのだそうだ。
そして、二人目の被害者、野村 明敏の担任でもある。
「私、毎朝一番に学校に来ていて、校門の鍵を開けるのが習慣になっていたんです。ですが、あの日の朝、普段なら掛かってる筈の鍵が掛かってなくて……」
真理は、不思議に思いながらも校舎に向かい、昇降口の扉に手を掛けた。
やはり、昇降口の施錠もされておらず、真理は、珍しく他の教師が先に来ているのかと思い、職員室に向かった。
だが職員室には、人の気配がしておらず、首を捻っていると、同僚の美作 薫の鞄が机に置きっぱなしになっているのを発見した。
普段なら遅刻ギリギリにやってくる美作が、自分より早く学校に来ている事に驚き、何かあったのだろうかと思った真理は、美作を探す。
そして、見つけたのが、美作が受け持つクラスの教室だったのだ。
「薫を見つけた時、床一面に血が飛び散っていて、薫自身も身体にいっぱい血が……。慌てて、抱き起こした時には、もう……冷たくて」
真理は俯き、自身を抱きしめるかのように身体に腕を回す。
その腕は、傍から見ても判る程、小刻みに震えていた。
「辛い事を思い出させてしまって、ごめんなさい」
春日はそういいながら、壊れ物を扱うように真理を抱きしめる。
真理は、目を大きく見開き、一瞬、身体を硬直させたが、直ぐに春日の背に腕を回し静かに涙を流した。
堪えるような嗚咽が、微かに聞こえる。
自分の身の回りの人間が亡くなったのだ。
悲しくない人なんて、居るはずが無い。
その人が、大切であれば、ある程、辛さは増し、悲しみは途方も無い程に深いものへとなる。
真理さんもまた、底知れぬ悲しみに捕らえられてしまったのだ。
穏やかな光が、教室を照らし、空気中を舞う埃を反射させている。
窓の外を眺めると、澄んだ水色の空が山々の濃い緑と相成って、まるで、一枚の絵のように見えた。
その風景は、平和そのもので、この事件自体が偽りの事のように思える。
「春日さん……だったかしら?有難うございます。もう、落ち着きましたから、大丈夫です」
真理は、涙で濡れた頬を手でぬぐいながら、懸命に微笑む。
そんな真理を見つめ、春日は心配そうな表情を浮かべた。
「……無理は、なさらないで下さいね?」
春日の言葉に真理は頷き、再度「有難う」と、お礼を述べた。
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