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◆死灰屠り(完/連)
第五話
◆◆


そこは、意外にも真新しい鉄筋コンクリートで出来た三階建ての校舎だった。

うっそうと生い茂る森をバックに、白っぽい外壁の校舎が、俺達を見下ろしている。

「流石に、人がいませんね」

俺は、すぐ脇に広がるだだっ広いグランドを見渡しながら、隣で校舎を見上げる春日に声を掛けた。

「今日は土曜日だし、休日だから仕方ないわ。ねぇ、右京、校舎の中は入れる?」

春日は背後に立っていた、右京を振り返る。

「あぁ、許可は四郎さんが取ってくれている筈だ。正面玄関が空いている筈だが……」

右京はそう言い、校舎の中央にあるガラス張りの扉に向かって歩を進めた。

俺達も後を追い右京に続く。

綺麗に磨かれた観音開きの扉を引くと、金属の軽い軋みの音を響かせ、扉はすんなりと俺達を迎え入れた。

中に入れば、外観と同じく、まだ新しい壁や廊下が目に付く。

だが、それとは対照的に置かれている下駄箱や棚などは、年代を感じさせる古い物だった。

恐らく、これは使い回しなのだろう。

この山上高等学校は昨年、老朽化が原因で新校舎に建て替えたばかりらしい。

在校生はおよそ、百五十人。

この村の高校生の殆どが、ここに通っているのだという。

「現場は二年……A組の教室ね」

左京が、開いたファイルから目を離し、周囲を見回すと、職員用の下駄箱の横の壁に掛けてある掲示板を覗き込んだ。

そこには、この校舎の簡単な見取り図が書かれている。

校舎はL型になっており、一階には主に職員室と保健室、家庭科室や美術室。

二階に三年と二年生の教室と更に科学室。

三階には一年生の教室に音楽室や視聴覚室などが配置されているようだ。

「二−Aは二階のほぼ中央の教室みたいね」

左京の隣で、共に掲示板を覗き込んでいた俺は、軽く頷いた。



教室の扉には鍵は掛けられておらず、何の抵抗も無く春日の手によって開かれた。

カーテンが開かれた教室には、外の明るい日差しが注ぎこまれ、机に当った日差しが柔らかく反射している。

穏やかな時間が流れている様は、ここで人一人が変死していたという事実と、到底、結びつかないだろう。

「被害者である、美作 薫が倒れていた場所は、黒板と教卓の間みたいだな」

四郎から預かった写真と、教室の風景を見比べ、右京は口を開いた。

そして、美作 香が倒れていたであろう場所に立つ。

「丁度、この辺りだ」

「血の跡とかは……無いわね。綺麗にしたのね」

「そのようだな」

右京と左京の会話を聞きながら、俺は辺りを探り始める。

身体の感覚を切り離し、気の流れを見る。

だが、特にこれと言って、気の滞りや、何かの痕跡は見つからなかった。

「特に異常はないわね」

春日がため息混じりに呟く。

「要は?」

右京の問いに、俺は軽く首を横に振る。

「俺も何も感じません」

「そうか」と、右京は頷き、ふと廊下の方に視線を向けた。

俺も釣られて、右京の視線の先を辿る。

八つの目を向けたその方向には、驚いたような表情の女性が立っていた。


◆◆


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あきゅろす。
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