◆死灰屠り(完/連)
第三話
◆◆
一人目の被害者は、この村にある有一の高校の英語の教師をしている女性だった。
名前は、美作 薫(みまさか かおる)
年齢三十二歳。
同僚が早朝、教室で血を流して倒れている美作 薫を発見した。
驚いた同僚が駆け寄った時には、既に死亡。
腹部と頸部には、獣に噛まれたような傷跡が残されていた。
二人目の被害者は、この村の農家の息子。
名前は、野村 明敏(のむら あきとし)
年齢十七歳、高校二年生。
深夜になっても家に帰ってこない息子を心配した母親が、田んぼの用水路に下半身を突っ込み、仰向けに倒れている野村 明俊を発見した。
右腕と、頸部にやはり獣に噛まれたような傷があり、母親が駆け付けた時には、既に死亡していた。
三人目の被害者は、この村に常駐している、警官の一人。
名前は、山崎 澄人(やまさき すみと)
年齢四十五歳。
山へと続く道の入り口付近で、血を流して倒れている山崎 澄人を近所の老夫婦が発見した。
右腕と、右足首、そして頸部にこれもまた、獣に噛まれたような傷跡があった。
老夫婦が発見した時には微かに息があったが、病院へ搬送中に亡くなり、病院で死亡が確認された。
「と、まぁ、三人とも、出血多量による失血死や」
四郎は、被害にあった三人の死亡現場の写真と、死体の写真をテーブルに並べ、俺達に視線を巡らす。
「お前達は、どう思う?」
「‘どう’と言われましても……」
右京は思案するように腕を組み、傷跡が写っている写真に指を差した。
「この獣に噛まれたという傷……、野犬か何かと言う事は?」
その問いかけに、四郎はソファーの背もたれに豪快にもたれながら渋面を作った。
「確かに、この村……ちゅうより、山には野犬の数十匹は居るやろうが……監察医が言うには、傷跡は確かに野犬に似とるが、野犬の歯形やないと言っとるんや」
テーブルに置かれた写真に目を落としていた春日が、訝しそうに四郎を見上げる。
「どういう事?」
「……大きすぎるんや。大きさから考えると犬や猫ではありえへん。成獣したライオンよりも大きい獣やないと説明が付かへんと言っとった。ライオンよりも大きい犬や猫なんて、居ると思うか?」
「……居ないでしょうねえ」
四郎は、左京の答えに、頷く。
「まぁ、そう言う事で、ちっと調べてみてくれ、勿論、俺も協力する」
「判りました」
俺達は、頷き了承の意を表した。
「あぁ、ホンマ頼むわ。……どうもな、嫌な予感がしてならんねや」
そう言いながら四郎は、眉間に深く皺を寄せ、テーブルの写真を眺める。
血生臭い現場の写真とは裏腹に、開け放たれた縁側からは、鹿威しの音と緩やかな風が室内を巡っていた。
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