◆死灰屠り(完/連)
第二話
◆◆
ベージュのシンプルな形のノースリブのワンピース。
グレーの網状になったストールを肩から掛けた初老の女性は、俺達を家の中へと案内してくれた。
敷き詰められた石畳を歩いていくと、手入れの行き届いた日本庭園が視界に入る。
中央の池には、大きな錦鯉がゆうゆうと泳ぎ、鹿威しの竹の音と、水の音がゆったりとした空間を創り上げていた。
木のよい香りがする、六畳程の玄関に通された。
正面には、薄墨で犬のような動物が描かれた屏風が飾られ、靴棚には、高そうな壷や盆栽が置かれている。
「さあ、お上がり下さいな。荷物の方は、用意させてもらっている離れの部屋に運ばせてもらっていいかしら?」
ニコニコと人の良さそうな微笑みで問いかけてくる女性の申し出に、俺はやんわりと断る事にした。
初老の、しかも女性に、荷物を運ばせるのは、いくらなんでも気が引ける。
女性は「あら、そう?」と、少し残念そうに首を軽く傾げると、屏風の隣を指差した。
「でしたら、取りあえず荷物は、そこに置いて、中にお上がり下さいな。主人が首を長くして待っていますわ」
女性の明るい声に促されるまま、俺達は、穏やかな日差しの当る廊下を進んだ。
◆◆
通された部屋には、既に初老の男性が待っていた。
男性は女性と違い、短髪に深緑のTシャツ。
黒と白、灰色の細かいチェック柄のハーフパンツを穿いていて、いかにも活発そうな風合いの男性だ。
「おぉ、若宮の倅!!それに姫さんも久しぶりやな。二年ぶりか?元気にしとったか?」
男性は、座っていたベージュの布張りのソファーから立ち上がり、ニカッと歯を見せ笑う。
そんな男性に、右京は微笑み、軽く頭を下げた。
「四郎(しろう)さん、お久しぶりです。相変わらずお元気そうですね」
「ホントねー、それだけ元気なら、まだ引退しなくても良かったんじゃなぁーい?」
左京が男性に悪戯っぽい目を向けると、男性は豪快に笑い出した。
「左京は相変わらず気持ち悪い話し方しとるんやなあ」
「まっ!大きなお世話よ!」
「そんなんやったら、嫁さん見つからんやろ?……って、おっ?右京、この坊主が?」
男性は、ズイッと身を乗り出すように俺に近付き、指を差しながら右京へ顔だけ振り向いた。
「ええ。小泉 要君です。要、こちらは山瀬 四郎(やませ しろう)さんだ」
突然振られた矛先に、俺は慌てて頭を下げた。
「は、初めまして、小泉です。宜しくお願いします」
「おお、こちらこそよろしくな。あ、俺の事は四郎でええからな」
四郎はそう言うと、皺の刻まれた大きな手で、ワシワシと俺の頭を撫でる。
頭を撫でられたのは、一体、何年ぶりだろう。
子供の頃、帰省先の祖父が、最後ではなかっただろうか。
だが、祖父よりも少し……いや、かなり豪快な感じだ。
「さてと、そんじゃあ、ちゃっちゃっと、現状報告するか」
そう言うと、四郎は、ソファーの前に置かれたテーブルに付いている引き出しを開け、茶色い封筒を取り出した。
カサカサと紙の音を立て、取り出したのは数枚の写真だ。
「まぁ、座りいや」
四郎に促され、それぞれソファーに腰を下ろす。
全員が座ったのを確認するように頷くと、四郎は、写真をテーブルの上に並べ、淡々と話し始めた。
――事の始まりは、二週間前に遡る――
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