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◆死灰屠り(完/連)
第一話
◆◆


少し、じめじめとした空気と、青々と生い茂る木々達に囲まれた小さな村。

遠くから聞こえる鳥の鳴き声に、時折聞こえる原付バイクの走る音。

目の前の田んぼには、濃い緑をした米の苗が風に揺れている。

「要君、行くわよー」

お姉言葉を操りながら、肩ぐらいまでの少し明るい色をした髪を後頭部で一つに結んだ左京が、景色に見入っていた俺に声を掛けてきた。

若宮 左京(わかみや さきょう)は、俺が働いている真上探偵社の心霊班の一人で、俺の上司だ。

「随分と蒸すな……」

そう言いながらも、ビシッとスーツを着込み、軽いオールバック風の髪型の男は、左京の双子の兄である若宮 右京(わかみや うきょう)。

右京は心霊班を統括している。

本部勤務とはいえ、まだまだ新米の俺にしてみれば、右京はある意味、雲上人だ。

真上(まがみ)探偵社は、全国の探偵社の中でも一、二を争う大手企業で、社員数は数千人にも上る。

そして、取り扱う内容もかなり幅広い。

身辺調査から、ストーカー、盗聴、人捜し(ペット含む)、そして、俺達が担当する心霊現象。

数ある探偵社の中で心霊現象を取り扱っている探偵社は、そうそうないだろう。

「要、荷物よろしく」

肩甲骨ぐらいまでの、漆黒の髪を結い上げ、Tシャツにジーパンというラフな格好をした春日が、車のトランクに入ったボストンバッグを指差す。

春日 彩季(かすが さえり)

現役の高校生なのだが、特例で、真上探偵社で働いている。

勿論、俺と同じ心霊班だ。

そして、悲しい事に春日も俺の上司にあたる。

荷物運びなどの雑務は、今も昔も部下の仕事というのは、どこの会社も変わらない。

例えそれが、年下の上司だったとしてもだ。

「はいはい」

「返事は一回」

「……はい」

春日にダメ出しされた俺は、園児がすっぽり入りそうなボストンバッグを両手に提げ、先行く三人を追いかける。

山間から流れてくる風は、少し冷たく、心地よい。

Yシャツの下に滲む汗が、スッと引いていくようだ。

俺の名前は、小泉 要(こいずみ かなめ)、最初は支部で勤務していたのだが、三ヶ月前、本部の心霊班に異動となった。

初めは、慣れない共同生活と仕事にてんてこ舞いだったが、最近ようやくこの環境にも慣れてきたところだ。

支部勤務とは違い、本部勤務は、仕事の内容が更に難しいモノ、厄介なモノが多い。

つまり、支部では処理出来ない仕事が本部に回ってくるのだ。

なので、今回のように出張する事も多かったりする。


遠くの田んぼのあぜ道を歩く、腰の曲がったお婆さんが、目を細め、こちらの様子を伺うように見つめていた。

恐らく、見慣れない顔の集団なので、不審に思っているのだろう。

ここは、人口三千人程の、とある県境にある農村。

農業が盛んで、人口の七割が農家だ。

過疎化が進み、六割がお年寄りで占められている。


駐車場から少し広いあぜ道のような道を数十メートル歩き、二階建ての大きな木造の家の前に着いた。

その家は、二メートル程の装飾された木製の板が敷地内をグルリと囲み、正面入り口にも、これまた装飾が施された立派な門構えが立ちそびえている。

右京がインターホンを鳴らすと、数秒も経たない内に門の横に付いているくぐり戸から初老の女性が出てきた。

「遠路遥々、お疲れ様でした」

そう言いながら、出てきた女性は気品のある綺麗な人だった。



◆◆

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