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◆死灰屠り(完/連)
第二十四話
◇◇



―真上探偵事務所別館―


「山西さん、石原さん、吉川さん、本日はお忙しい中、呼び立ててしまいまして、申し訳ありません。御足労感謝致します」

右京は軽く頭を下げると、山西達が座っている向いのソファーに腰を掛けた。

「今日、来ていただいたのは、山西さんの御依頼の調査報告をと思いまして」

「杉田を呪っていた相手が判ったのですか!?」

山西が、座っていた皮張りのソファーから、腰を浮かす。

「一体、誰なんです!?」

右京に詰め寄るように、山西は身を乗り出し声を荒げた。

「山西さん、落ち着いて下さい」

俺は、興奮する山西の両肩に手を置き、ソファーに座るように促す。

「……あの、それは……」

そんな山西に石原が、か細い声で何かを言おうと口を開いたが、直ぐに俯いてしまった。

「……呪詛は、石原さんが行っているものではありませんでした」

その言葉に山西と石原の視線が一斉に右京に集中する。

「私じゃ……ないんですか?」

右京は、ゆっくりと、首を縦に振る。

「ですが、石原さんが、杉田さんに‘好感を持っている’つまり、お付き合いしているという事実が、呪詛を発動させる引き金となったのは間違いないでしょう」

淡々と話す右京に石原がおずおずと問う。

「それは、私が原因だと言うことでは……ないのですか?」

「石原さんは、あくまで引き金です。実際に呪詛を行っていたのは、この世の者ではありません。……黒巫女というのをご存知ですか?」

山西達は、お互いに視線を交差させた。

「いえ、知りません」

そう答えたのは、山西だ。

「……簡単に言えば、呪術を操り、人を殺めるのを仕事としていた巫女の事よ。勿論、それが仕事の全てではないけどね」

ソファーに座る石原の背後に立っていた左京が、口を開いた。

吉川は、眉を顰め、訝しげに問いかける。

「つまり、その黒巫女が、杉田さんに呪詛をかけていたんですね。でも、何故、黒巫女はそんな事を?美弥乃と何か関係が?」

「黒巫女と石原さんの間には関係はありません。あるとすれば……吉川さん、貴方ですよ」

右京の台詞に吉川は、面食らった表情で、俺達を見る。

「ちょっ、冗談でしょ?」

俺は、首を横に振りながら、重い口を開けた。

「……冗談ではありませんよ。先日、吉川さんの部屋から、巫女達が現れるのを確認致しました」

俺が、そう言うと、山西が勢いよく立ち上がり、吉川の胸ぐらを掴みかかった。

「お前が……お前が杉田をあんな目に!!」

「山西さん!」

俺は、急いで山西と吉川の間に割って入り、山西を引き離す。

吉川は、苦しそうに襟元に手をやり、咳き込みながら声を発した。

「俺は、黒巫女なんて知らないぞ!見た事も、聞いた事もない!!」

「……吉川さん、一つお聞きしてもいいですか?」

静かな声が、部屋に響いた。

窓枠に腰掛けていた春日が、ゆっくりと吉川に近付く。

「日々の生活の中、吉川さん自身が、こうなればいいなと想う事が、実際に起こる事って多かったりしませんでしたか?例えば、嫌な人が事故なんかのトラブルに巻き込まれるとか……」

吉川は、春日から向けられる視線から逃れるように俯いた。

「……確かに……多いかもしれません」

「やっぱりお前じゃないか!お前が、黒巫女とかいうヤツを使って、呪詛を掛けたんだろ!!」

山西は、俺に押さえられているにも関わらず、殴りかかる勢いで、身体を動かす。

吉川は、そんな山西に怯みながら、大声を上げた。

「だから、俺は黒巫女なんて知らないんだよっ!!」

「まだ、そんな嘘を!!」

山西の握られた拳が、わななく。

そんな山西を諭すように春日が声を掛けた。

「山西さん、吉川さんが、おっしゃっている事は本当です」

「なに……」

山西の動きがピタリと止まった。

「吉川さんに黒巫女が憑いているのは間違いないでしょう。ですが、その事を、吉川さんは、ご存知なかったのだと思います」

「知らない……だと?」

「はい。此処からは推測ですが、黒巫女が発動するのは、吉川さんの意思ではなく、負の心なんだと思います」

「俺の負の心……」

吉川は、自身の胸元をぐっと掴むと、ポツリと呟いた。

「……怒り、憎しみ、妬みなんかの心です。吉川さんにとって、邪魔な人、憎い人などを黒巫女が勝手に呪詛を掛けていたのだと思います」

「待ってください!じゃぁ、何故、杉田さんが?浩ちゃんが、杉田さんを憎んでいるって、どうして!?」

信じられないといった風に、石原が声を上げた。

「……本当に、お判りになりませんか?何故、石原さんが好意を寄せた人達が、トラブルに巻き込まれてしまうのか」

俺は真っ直ぐ石原を見つめる。

石原は、俺を凝視したまま呆然と押し黙ってしまった。





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あきゅろす。
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