◆死灰屠り(完/連)
第二十三話
◆◆
赤々と燃え上がる炎が、暗い公園を照らしだしている。
木々の葉や乾いた土が、揺らめく炎の光で赤く染まる中、春日は両の手を地面に付け、今にも崩れそうな身体と、意識を懸命に保とうとしていた。
ぼやけた視界に、右京と左京が紅焔と対峙している姿が映る。
「……良かった。右京達、間に合ったんだ。これで、最悪な事になっても――」
小さな呟きを最後に、春日の意識はプツリと途絶えた。
◆◆
右京と左京は、身構える紅焔に臆する事無く、距離を縮めていく。
そんな右京達に紅焔は、威嚇するかの様に纏っている炎を更に激しくした。
それでも、右京達は怯む事もなく紅焔に近づき、前後を挟むようにして立つ。
「天清浄、地清浄、内外清浄、六根清浄」
右京はそう言うと、パンと音を立てて両手を合わせた。
同時に左京も手を合わせ、今度は二人同時に口を開く。
『寄り人は、今ぞ寄り来る、蒼き獣』
その瞬間、青白い炎が、右京達の回りに現れた。
『我が身に降り来て、力を示さん』
「……あれは……蒼焔?」
俺は、右京達を取り巻く見覚えのある青白い炎を目にし、呟く。
紛れなく、その炎は春日を守っているという、蒼焔と同じ色をしていた。
青い焔は、紅焔を囲むように広がり、そのまま紅焔を包み込んでいく。
交じり合った炎が紫色に変化し、次第に赤い炎が飲み込まれる様に、青白い炎へと変わると、辺りに溶けるように消えていった。
「……収まってくれた……みたいね」
左京が、深いため息と共に安堵を含んだ声で話す。
「そのようだ」
右京も、ため息を吐きながら答えた。
「サエっ!?」
俺は、辺りを見渡し、地面に倒れている春日を見付けると、急いで駆け寄った。
春日は意識を失っているのか、ピクリとも動かない。
「サエっ!」
俺は、春日を抱え起そうと、手を伸ばす。
だがその手は、背後から伸びてきた左京の手によって遮られた。
「左京さん?」
困惑した表情で左京を見上げると、左京は、苦笑いを浮かべながら、首を横に振る。
「今のサエちゃんには……触っては駄目」
「な、何故ですか?」
その問いに答えたのは、右京だ。
「紅焔を開放した、今の彩季に触れれば、普通の人間は、持っていかれてしまうんだ」
「普通の人間って……そもそも、もっていかれるって、何をです?」
問いかける俺の声は、なぜか震えている。
右京は、春日をそっと抱き上げると、眠るその顔に視線を留める。
そして、いつもより何処か小さな声で、それでも俺の耳にはハッキリと聞こえる声で言葉が紡がれた。
「よくて意識。悪ければ……魂だ……」
◆◆
暗い闇が辺りを覆う中、小さな光が、幾万幾億と光っている。
それは、夜空の星のような僅かな明かりで、酷く儚げだ。
「無茶をしおって」
「……ごめんなさい」
背後からの声に春日は振り返りもせず、謝罪する。
誰が、話しかけてきたのかは、確認せずとも春日には判っていた。
この場に来られるのは、春日を抜いて、この世界でただ一人だけだからだ。
「その謝罪が、本心からならば、よいのだがなぁ……」
悲しげな、何処か諦めたような声が、何も無い空間を漂う。
春日は、小さく淡い光を見つめたまま、微かに笑った。
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